真黄色まっきいろ)” の例文
そして、すいたらしいッてね、私の手首をじっと握って、真黄色まっきいろな、ひらったい、小さな顔を振上げて、じろじろと見詰めたの。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敵軍の偵察艦隊から、殆んど同時に、真黄色まっきいろな煙が上った。十門ずつの八インチほうが、一斉に火蓋を切ったのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こちらをごらんなさい、花も、葉も、枝も、すっかり白天鵞絨しろびろうどではございませんか。これはまあ、真黄色まっきいろ! こんな大きな梅鉢草うめばちそう! これは石楠花しゃくなげ躑躅つつじの精かも知れません。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ベルナールとロジェとジャックとマルセルは、それをいかけはじめます。エチエンヌのことも、真黄色まっきいろ綺麗きれいな道のことも忘れてしまいます。おかあさんとのお約束やくそくわすれてしまいます。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
同時に南瓜の葉が一面に波を打って、真黄色まっきいろかもめがぱっと立ち、尾花が白く、冷い泡で、糸七のつらを叩いた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アノ椿つばきの、燃え落ちるように、向うの茅屋かややへ、続いてぼたぼたとあふれたと思うと、菜種なたねみちを葉がくれに、真黄色まっきいろな花の上へ、ひらりといろどって出たものがある。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀杏いちょうの葉の真黄色まっきいろなのが、ひらひらと散って来る、お嬢さんの肌についた、ゆうぜんさながらの風情も可懐なつかしい、として、文金だの、平打だの、見惚みとれたように呆然ぽかんとして
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふかし芋とこの店に並べてあった——村はずれの軒を道へ出て、そそけ髪で、紺の筒袖を上被うわっぱりにした古女房が立って、小さな笊に、真黄色まっきいろな蕈をったのを、こうのぞいている。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
通りすがりに考えつつ、立離たちはなれた。おもてあっして菜種なたねの花。まばゆい日影が輝くばかり。左手ゆんでがけの緑なのも、向うの山の青いのも、かたえにこの真黄色まっきいろの、わずかかぎりあるを語るに過ぎず。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両眼りょうがん真黄色まっきいろな絵具の光る、巨大な蜈蜙むかでが、赤黒い雲の如くうずを巻いた真中に、俵藤太たわらとうだが、弓矢をはさんで身構えた暖簾のれんが、ただ、男、女と上へ割って、柳湯やなぎゆ、と白抜きのに懸替かけかわって
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、ばっと音を立てて引抜いた灰汁あくつらと、べとりと真黄色まっきいろ附着くッついた、豆府の皮と、どっちのしわぞ! ったように、低くしゃがんで、その湯葉の、長い顔を、目鼻もなしに、ぬっともたげた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、冬の日のわびしさに、紅椿べにつばきの花を炬燵こたつへ乗せて、籠を開けると、花をかぶって、密を吸いつつくちばし真黄色まっきいろにして、掛蒲団かけぶとんの上を押廻おしまわった。三味線さみせんを弾いて聞かせると、きそって軒で高囀たかさえずりする。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)