目頭めがしら)” の例文
なかでも、波止場はとば人混ひとごみのなかで、押しつぶされそうになりながら、手巾ハンカチをふっている老母の姿をみたときは目頭めがしらが熱くなりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
手巾ハンカチ目頭めがしらにあてている洋装の若い女がいた。女学校のときの友達なのだろう。蓬々ぼうぼうと生えた眉毛まゆげの下に泣きはらした目があった。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
俊寛も、胸が熱くるしくなって、目頭めがしらが妙にむずがゆくなってくるのを感じた。見ると、船のへさきには、一流の赤旗がへんぽんとひるがえっている。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そののことです。たつ一は、おともだちと、キャッチボールをやっていて、ふと戦死せんしした徳蔵とくぞうさんのことをおもすと、きゅう目頭めがしらあつくなりました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうして歌をお思附おもいつきになったのだろう、よほどおうれしいのに違いないと思いますと、いつか目頭めがしらが熱くなりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ということを、神尾主膳がそぞろ心に思い起して来ると、世間の親の有難さということに目頭めがしらが熱くなってくる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今の人は何かというと涙ぐましいだの、目頭めがしらが熱くなるだのという句を濫用するが、その実へんな顔をする程度で、声をげる男などはもう無くなった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう目頭めがしらが一ぱいになって来るのを、やっとこらえながら、垣根の向うの、一面に雑草の茂った空地を、何か果てしなく遠いところのものを見ているかのように見ていたりした。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
新吉は右の指端ゆびさきを右の眼の傍へ持って往って、人さし指で目頭めがしらをちょとおさえた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ゆき子は、話してゐるうちに、感傷的な気持ちになり、目頭めがしらが熱くなつてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
つい目頭めがしらが熱くなり、心弱くも涙が流れた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
知時も思わず目頭めがしらが熱くなってきた。
隆夫の母親は目頭めがしらをおさえた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
良吉りょうきちは、小学校しょうがっこうわると、みやこはたらいたのであります。ただ一人ひとり故郷こきょうのこしてきた母親ははおやのことをおもうと、いつでもあつなみだが、目頭めがしらにわくのでした。
母の心 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もはやそれを読む人も、整理する人もないことを思いますと、またしても目頭めがしらが熱くなりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ここまで読んで来た時、神尾主膳の目頭めがしらが熱くなってきました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、さすがによろこびをきんじられなかったのです。そして、そこに、やっと十二、三の少年しょうねんが、ぬれねずみになってっているのをると、目頭めがしらあつくなりました。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女かのじょは、こうこたえると目頭めがしらあつくなりました。自分じぶんおとうと姿すがたかんだからです。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは、そうさとると、むねがどきどきとして、きゅう目頭めがしらあつくなりました。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)