目星めぼし)” の例文
H氏が東上して井上侯を訪問する場合には、いつも鴻池の埃臭い土蔵から一つ二つ目星めぼし骨董物こつとうものを持参する事を忘れなかつた。
十六日、前橋地方裁判所の嘱託を受けたる各地管轄の区裁判所判事は目星めぼしき村民の家宅に就きて証拠物件の捜索を遂げぬ。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
狭い土地に、数のない芸妓やによって、こうして会なんぞ立込たてこみますと、目星めぼしたちは、ちゃっとの間にみんな出払います。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひょっと目星めぼしい品が視野から彼女を呼び覚すと、彼女の青みがかった横長の眼がゆったりと開いて、対象の品物を夢のなかの牡丹ぼたんのように眺める。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たしかにそのとおりで、犯人の目星めぼしがさっぱりつかないので、この事件を担当している、秋吉警部あきよしけいぶはいらいらしていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その矛盾せる行為の相互間に生ずる一種の錯覚を以て、犯人に対する目星めぼしを誤らしめんがためにりたる極めて巧妙なる手段なりと思惟しいし得べし。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
目星めぼしいものはなさそうですが、「行きがけの駄賃だちんだ」という考えで、一とかせぎしようと思いました。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
それやこれやで、彼女たちの中の嫉妬しっと深い者が目星めぼしをつけられて厳重な訊問じんもんを受けることになったが、そんな形跡もないことが知れて、此の方面の努力も水泡すいほうに帰した。
『これならむすめ婿むことしてはずかしくない……。』両親りょうしんほうでははやくもそれに目星めぼしをつけ、それとなく言葉ことばをかけたりしました。むすめほうでも、まんざらわる気持きももしないのでした。
「解っていますよ、目星めぼしいものを売ったりなんかして、掻き集めた金は十五両」
自分はそこでこの怪しい殺人事件が起ってからの目星めぼしい事柄を数えて見た。
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
着くとすぐに、かねて目星めぼしをつけておいたの大叔父を訪ねた。
一昨夏神主の社宅を造るとて目星めぼしき老樹ことごとく伐り倒さる。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
七兵衛が目星めぼしをつけておいたのはその邸。
ひょっと目星めぼしい品が視野から彼女を呼び覚すと、彼女の青みがかった横長の眼がゆったりと開いて、対象の品物を夢のなかの牡丹ぼたんのように眺める。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
当代の如何なる名探偵が駈け付けて来ても全然目星めぼしの付けようのない犯罪が行える……否、現在そこいらでドシドシ行われているとしたらどうだね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
六十三歳の今日こんにちまで、色々な道楽をつくした人だけあつて、書画骨董もかなり目星めぼしい物を集めてゐる。
翌日僕は研究所内が最もだれきった空気になる午後三時を見計みはからってソッと三階へ上った。ねて目星めぼしをつけて置いた例の本を抜きとると上から三段目の階段へせた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今回省線しょうせん電車内に起りたる殺人事件は、本職を始め警視庁を愚弄ぐろうすることのはなはだしきものにして、爾来じらい極力きょくりょく探索たんさくの結果、此程このほどようやく犯人の目星めぼしつかむことを得たるを以て
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その少年が前回の実母絞殺事件で無罪と相成りましたのちも私は決して安心致しませんで、何とかして犯人の目星めぼしをつけたいと考えました結果、被害者の実の姉で、少年の伯母おばに当る八代子やよこという者や
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)