皓歯しらは)” の例文
旧字:皓齒
女房が気を利かせて、箸箱をと思う間もなく、愛吉のを取って、臆面おくめんなし、海鼠は、口にって紫の珠はつるりと皓歯しらはくぐった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皓歯しらはの輝きが一つ一つ消え行くにつれて、それに取って代った天鵞絨びろうどのようなまだらが、みるみる顔一面に滲み拡がっていった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あの艶をつたすゞしいひとみ、物言ふ毎にあらはれる皓歯しらは、直にあかくなる頬——その真情の外部そとに輝きあふれて居る女らしさを考へると、何時の間にか丑松はお志保のおもかげを描いて居たのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
素顔に口紅でうつくしいから、その色にまがうけれども、可愛いは、唇が鳴るのではない。おつたは、皓歯しらは酸漿ほおずきを含んでいる。……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅客もステッキをたてかけて、さしむかいに背をかがめ、石を掻抱かいだくようにして、手をついて実をながめたが、まなじりを返して近々と我を迎うる皓歯しらはを見た。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ。」と云って、袖に抱いた風呂敷包みの紫を、皓歯しらはんだ。この時、この色は、瞼のそのあけを奪うて、さみしく白く見えたのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
素顔の雪に化粧して、皓歯しらはに紅を濃く含み、神々しく気高いまで、お珊はここに、黛さえほんのりと描いている。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皓歯しらはでその、足袋の紐に口紅の附いたのを見て、晩方の土の紺泥こんでいに、真紅の蓮花れんげが咲いたように迷出して、大堕落をしたと言う、いずれ堕落して還俗だろうさ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐに美人が、手の針は、まつげにこぼれて、目に見えぬが、糸は優しく、皓歯しらはにスッと含まれた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と斜めに警官を見て、莞爾にっこり笑う……皓歯しらはも見えて、毛筋の通った、つぶし島田は艶麗あでやかである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところで大胆だいたんにそのさかずきを、わかい女に返しますとね、半分ばかり貴婦人にいでもらって、袖を膝にせながら、少し横向きになって、カチリと皓歯しらはの音がした、目をねむって飲んだんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急に唇をきっと結び、笑くぼを刻みながら涙をこらえて、キリリとなら皓歯しらはの音。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大通おおどおりへ抜ける暗がりで、甘く、且つかんばしく、皓歯しらはでこなしたのを、口移し……
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、——食切くいきってくれ、その皓歯しらはで。……潔くあなたに上げます。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
扇子おうぎかざし、胸を反らしてじっと仰いだ、美津の瞳は氷れるごとく、またたさもせずみはるとひとしく、笑靨えくぼさっと影がさして、爪立つまだつ足が震えたと思うと、唇をゆがめた皓歯しらはに、つぼみのような血をんだが
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飽けば火鉢のへりひじつき、小楊枝こようじにて皓歯しらはをせせりながら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皓歯しらはべによ、すごいようじゃない事、夜が更けた、色艶いろつやは。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、あとのに、いきなりまた皓歯しらはを当てると
「ほほほ。」と、罪の無い皓歯しらはつぼみ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも皓歯しらはと前髪で。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも皓歯しらはと前髪で——
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)