生温なまぬ)” の例文
気のなさそうな生返事なまへんじをした叔母は、お金さんが生温なまぬるい番茶を形式的に津田の前へいで出した時、ちょっと首をあげた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身動みうごきもせずじつとして兩足をくんすわつてると、その吹渡ふきわた生温なまぬくいかぜと、半分こげた芭蕉の實や眞黄色まつきいろじゆくした柑橙だい/\かほりにあてられて、とけゆくばかりになつてたのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其の一口に申せば生温なまぬるさに、満ち足りなかった男性の心は、此国の強健な肉体と、少くとも自己を主張し得る女性の「張り」に、甦ったような解放を感じずには居られないのでございます。
C先生への手紙 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
生温なまぬるきかぜのごとほねもなきうごく——そのそら鏽銀しやうぎんかねはかかれり。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ただ、その石のように握り締めた両手のこぶしの間から、生温なまぬるい汗がタラタラとほとばしり流れるのをハッキリと意識していたものだが、「手に汗を握る」という形容はアンナ状態を指したものかも知れん。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その藻草があたかも生温なまぬるい風になぶられるように、波のうねりで静かにまた永久に細長い茎を前後にうごかした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
辛気くさい静かな雨、かなしいやはらかな……生温なまぬるい計画たくらみの雨。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そら来たと思いながら、何だと聞いたら、「あまり早くて分からんけれ、もちっと、ゆるゆるって、おくれんかな、もし」と云った。おくれんかな、もしは生温なまぬるい言葉だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちかへると、小六ころく火鉢ひばちまへ胡坐あぐらいて、脊表紙せべうしかへるのもかまはずに、つたほんうへからかざしてんでゐた。鐵瓶てつびんわきおろしたなり生温なまぬるくめてしまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うちへ帰ると、小六は火鉢ひばちの前に胡坐あぐらいて、背表紙せびょうしり返るのも構わずに、手に持った本を上からかざして読んでいた。鉄瓶てつびんわきおろしたなり、湯は生温なまぬるくめてしまった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私のこの言葉はぼんやりしているばかりでなく、すこぶる不快に生温なまぬるいものでありました。鋭い兄さんの眼から出る軽侮けいぶ一瞥いちべつと共に葬られなければなりませんでした。兄さんはこう云うのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)