理由いわれ)” の例文
理由いわれない嫉妬のために殺されかけたのですから、死骸になった積りで、喜田川家を出るのに、何んのやましいことがあるでしょう。
おうさまは、おんないているのをて、家来けらいつかわして、そのいている理由いわれをたずねられました。いもうとは、一始終しじゅうのことを物語ものがたりました。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
働くことによって曇りもけがれもしない魂の存在を知っている!(なぜだって? いや、のろけになるからその理由いわれは語らないことにするよ)
おみな (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その理由いわれは、桂の父が、当時世間の大評判であった田中鶴吉の小笠原おがさわら拓殖たくしょく事業じぎょうにひどく感服して、わざわざ書面を送って田中に敬意を表したところ
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さる継母に養わるる姉上の身の思わるるに、いい知らず悲しくなりて、かくはわれ小銀のものがたりに泣きしなる。その理由いわれを語るべき我が舌は余りおさなかりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またなぜ彼ら二人が永久に残る理由いわれを、物々しく解説するのか、その主意が分らなかったので、自然の興味は全く不快と不安の念に打ち消されてしまった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
起訴して、絞首台に送りました。しかし後で、その事実が、間違っていることが分りました。貴女はお父さんが、理由いわれのない首を絞められたのを御存知でしょう
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私は何時いつとなく理由いわれなく、私の生れた小石川金富町こいしかわかなとみちょうの父が屋敷の、おそろしい古庭のさまを思い浮べた。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、お梶は、藤十郎からこれ程の悪戯や侮辱を受くる理由いわれを、どうしても考え出せないのに苦しんだ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
幸いの事には市之丞殿と芳江姫とが相思の間であるによってこのお二人の美しい恋を我らが手によって保育したならやがては双方のご両親の理由いわれない確執かくしつも解けるであろうと
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「春日新九郎と申す者じゃ。したが、何の理由いわれがあって、腕ずくでお止めなされた」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれは理由いわれのない惧れで、ソバケーヴィッチは顔の筋ひとつ動かさなかったし、マニーロフに至っては、相手の言葉に恍惚となって、我が意を得たりとばかりに頻りにうなずくばかりで
それを見るとヴェリチャーニノフは、憤然として彼の肩をひっつかんで、われながらわけも理由いわれもなしに、相手の齒が、がちがち鳴りだすほどの猛烈な勢いで、兩手でもって搖すぶりはじめた。
乙な眼遣めづかいをし麁匆ぞんざいな言葉を遣って、折節に物思いをする理由いわれもない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……それは余りに理由いわれないことであった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
働くことによつて曇りも汚がれもしない魂の存在を知つてゐる! (なぜだつて? いや。のろけになるからその理由いわれは語らないことにするよ)
をみな (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
流れゆくなぞはあまり気楽でもなかろうじゃアないか。けれどもいずれ何か理由いわれのあることだろうと思う、身の上話を一ツ聞かしてもらいたいものだ
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
理由いわれのない、良心の呵責かしゃくに悩み疲れている。理由はない、まさに確然と理由はない、それであるのに……。どうして、懲罰とか贖罪しょくざいとかいう意識がさき走ってくるのだろう。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「それ故私は機会おりにつけては父にも申すのでございます。——無名の戦はお止めくだされ。せめては脇屋刑部様との理由いわれない日頃の確執ばかりはどうぞお止まりくださるようにと」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あれは先年亡くなった、三浦屋の小紫そっくりだ、何んか理由いわれのある作だろう」
養女にやった先は女髪結おんなかみゆいの家であったが、その後は全く音信不通いんしんふつうなので、娘が身の成行きは知られようはずがない。お千代は新聞紙上のおとみが、どうやら理由いわれなく娘のおたみであるような気がする。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
若し相愛あいあいしていなければ、婚姻こんいんの相談が有った時、お勢が戯談じょうだん托辞かこつけてそれとなく文三のはらを探る筈もなし、また叔母と悶着もんちゃくをした時、他人同前どうぜんの文三を庇護かばって真実の母親と抗論する理由いわれもない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
親々おやおやはこの恋を許さざりき、そのゆえはと問わば言葉のかずかずもて許し難き理由いわれを説かんも、ただ相恋うるが故にこの恋は許さじとあからさまに言うの直截ちょくせつなるにしかず。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
国籍不明の水夫かこ達に依って、繰られている大型の船が、南海や支那海を横行し、海上を通る総船を、理由いわれ無しに引き止めて、その船内へ踊り込み、人間の数を調べたり掠奪を為るということは
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『イヤ私だって不動様を信じないとは限りません。だから母上おっかさんまアその理由いわれを話て下さいな。如何どんなことか知りませんが、親子の間だからすこしあかされないようなことは無いでしょう。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そりゃアまあまあ傾くについては、傾くだけの理由いわれがあろうし、そうして一度傾くと、そっちの方面にだって理窟はあろうさ。だが俺としては思うのだよ。真っ直ぐに歩けばいいじゃアないかとな。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)