玩味がんみ)” の例文
この点から申しても我等は古人の句を三読、五読、百読、千読してこれを習熟し、玩味がんみする必要があるのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
初五が短いためにそのあとでちょっとした休止の気味があって内省と玩味がんみの余裕を与え、次に来るものへの予想を発酵させるだけの猶予ゆうよを可能にする。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もちろん、武蔵は、長恨歌全文を、愛誦もし、白楽天のあの艶麗にして悠遠な構想と宇宙観の示唆しさに富んだ一章一章をふかく玩味がんみもしていたであろう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれは酔っ払っちゃいないんだ、ただ『玩味がんみしてる』だけだ。これはおまえのラキーチンの豚野郎の言いぐさだよ。
たとえば谷崎潤一郎氏が、氏のぬきさしならぬ文章精神を『文章読本』として世に問うたとき、現役文壇人の誰が真面目に氏の説を玩味がんみしたであろうか。
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
ゴンクウルはその探索蒐集しゅうしゅうせる資料を鑑賞し玩味がんみしこれによりてひたすら芸術的感覚の美に触れん事を求めたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕は青木君のためにばかりでなく、貴女自身のために、僕の云ったことをよく玩味がんみしていたゞきたいと思うのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし老人は、読み終った後、なおよく玩味がんみするためにも一度読み直した。それが済むと、メルキオルも老人もともに、まったくりっぱな出来だと断言した。
なるほど、前山さんは茶道に縁あって以来というもの中国陶磁に朝鮮陶器に日本ものに、ありとあらゆる名器を幾度となく、繰り返して玩味がんみせられたであろう。
あのときの綾之助の語り口は堅実であったと、耳の底にのこる記憶を、玩味がんみするように思出していた。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
英雄のたくましさがあるが、玩味がんみし来って、なんの残糟ざんそうも留めず、さながら寒潭かんたんを渡る雁、竹林を過ぐる風の如く、至玄しげん、至妙の境地に徹しているのは驚くべきである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それでも瑞巌寺ずいがんじの建築を考証したり、例の田山白雲が憧れている観瀾亭の壁画なんぞを玩味がんみしたりするだけの素養があればだが、それも七兵衛には望むのが無理です。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
名門豪戸競うて之を玩味がんみし給うとは雖も、その趣旨たるや、みだりに重宝珍器を羅列して豪奢を誇るのひんならわず、閑雅の草庵に席を設けて巧みに新古精粗の器物を交置し
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
平民社会の勃起ぼっきとは、つねに一致連帯の運動をなすものにして、このなかには実にいうべからざる妙理の存するものあるは社会の大勢に通じたるの士の実に玩味がんみするところならん。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「それは違うさ。文学を玩味がんみする能力のあるものは文章を書く書かないに拘らず皆文学者さ。そうして文章を書いて食っているものは文学を玩味する能力の有る無しに論なく皆文士さ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これ即ち時勢の要求であり、国家の希望であることを深く玩味がんみしてもらいたい。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
すると男は、相手の苦悩を玩味がんみしながら、ゆっくりゆっくり答えた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
マザーの恐ろしい話を熟読玩味がんみすることだった。
もってその妙旨を玩味がんみせられんことを望みます。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そうでなくても一つのものをよく玩味がんみしてそのうまさが分かれば他のものへの食慾はおのずから誘発されるのである。
一はく他国の文化を咀嚼そしゃく玩味がんみして自己薬籠中の物となしたるに反して、一はいたずらに新奇を迎うるにのみ急しく全く己れをかえりみいとまなきことである。これそも何が故に然るや。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
深く玩味がんみしてみると、そこに人間武蔵のおもしろさが津々しんしんとつつまれているような気がする。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらの傑作を玩味がんみすべきものであるが、単に一般家庭人が、モーツァルトの美しさ、愛らしさ、燦然さんぜんたる天才の片鱗へんりんを知らんとするためには、子守唄の一曲、トルコ行進曲の一曲
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
いや、おことば玩味がんみいたしますでございます。そこで、君、むだは抜きにして、僕は初め、この土地におけるすべての偏見を根絶するために、いたるところへ電波を放とうかと思ったんだ。
独り封建社会の継児たる智勇弁力の徒が指点してんして待ちたる動乱の機は来れり。ろう上に太息せる陳勝、爼辺そへんに大語せる陳平、窮巷きゅうこうに黙測する范増はんぞう圯上いじょうの書を玩味がんみする子房、彼らが時は既に来れり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
という詩句を玩味がんみしてみると、いかに最新の学説に含まれた偉大な考えがその深い根底においてこの言葉の内容と接近しているかに驚かざるを得ない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
けれど村上義清は、わが邸にもどってからも、終夜よもすがら謙信のことばを想い、その心事を玩味がんみしてみた。そして何かしらここ十年来は忘れていたような快い安らかな眠りにひきこまれた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余は今日となりては江戸演劇を基礎としてこれが改造を企てんよりはむしろそは従来のままなる芝居としてん事を欲せり。演劇改革の事業とその鑑賞玩味がんみきょうとはおのずから別問題たるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは一見誇大な言明のようであるが実は必ずしも過言でないことはこの言葉の意味を深く玩味がんみされる読者にはおのずから明らかであろうと思われる。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
有名な彼の遺文「独行道どっこうどう」の句々は、今日でも、愛誦あいしょうに足るものである。もとより彼の時代と現代とのひらきはあるが、玩味がんみすれば、人間本能の今も変らない素朴な良心にふれてくることは否めない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし途上の一輪の草花を採って子細にその花冠の中に隠された生命の驚異を玩味がんみするだけの心の余裕があったら
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
少なくもアインシュタイン以前の力学や電気学における基礎的概念の発展沿革の骨子を歴史的に追跡し玩味がんみした後にまず特別相対性理論に耳を傾けるならば
相対性原理側面観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こういう本格的な研究仕事を手伝わされたことがどんなに仕合せであったかということを、本当に十分に估価こか玩味がんみするためにはその後の三十年の体験が必要であったのである。
科学に志す人へ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして付け合わせの玩味がんみに際してしいて普遍的論理的につじつまを合わせようとするような徒労を避け、そのかわりに正真な連句進行の旋律を認識し享楽することができはしないかと思うのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)