玉章たまずさ)” の例文
が、重科を赦免せられない俊寛には、一通の玉章たまずさをさえ受くることが許されていなかった。俊寛は、砂を噛み、土を掻きむしりながら、泣いた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その玉章たまずさの中には、恐ろしい毒薬が塗籠ぬりこんででもあったように、真蒼まっさおになって、白襟にあわれ口紅の色も薄れて、おとがい深く差入れた、おもかげきっと視て
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここは木曽家の大奥なのであって、無数の部屋はつぼねなのであった。そうしてご殿女中は玉章たまずさなのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのかわりに、このとおり幸助どんの心をこめた玉章たまずさがおみやげだ。二度の奥勤めもできますまいから、しかるべき法を講じてね、早く長火ばちの向こうにおすわりなせえよ。
夏の玉章たまずさ一通、年の暮れの玉章一通、確かに届きぬ。われこれに答えざりしは今の時のついに来たりて、われ進みてふみまいらすべきことあるをかねてしいたればにて深きゆえあるにあらず。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はぎ桔梗ききょう、なかに玉章たまずさしのばせて
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
去る七月十五日香港よりお仕出しのおなつかしき玉章たまずさとる手おそしとくりかえしくりかえしくりかえし拝し上げ参らせ候 さ候えばはげしき暑さのおんさわりもあらせられず何より何より御嬉おんうれしゅう存じ上げ参らせ候 このもと御母上様御病気もこの節は
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一時ひとしきり、芸者の数が有余ったため、隣家となりの平屋を出城にして、桔梗ききょう刈萱かるかや女郎花おみなえし、垣の結目ゆいめ玉章たまずさで、乱杙らんぐい逆茂木さかもぎ取廻し、本城のてすり青簾あおすだれは、枝葉の繁る二階を見せたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると鳰鳥はどうしたものか、気味の悪い微笑ほほえみを浮かべたと思うと、何やら玉章たまずさへ囁いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これが世間にほまれのたけえ水茎の跡うるわしき玉章たまずさっていうやつなんだ。名は体を表わし、字は色を現わすといってね、さぞおくやしいでござんしょうが、この主はべっぴんですよ
その陽だまりは、山霊に心あって、一封のもみじの音信たよりを投げた、玉章たまずさのように見えた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「若いお方でございます」侍女の玉章たまずさは笑いながら、「大変な美男でございます」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふすまいた、と思うと、羽織なしの引掛帯ひっかけおび、結び目がって、横になって、くつろいだ衣紋えもんの、胸から、柔かにふっくりと高い、真白まっしろな線を、読みかけた玉章たまずさで斜めに仕切って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勘当ではない自分で追出おんでて、やがて、おかち町辺に、もぐって、かつて女たちの、玉章たまずさを、きみは今……などとしたためた覚えから、一時、代書人をしていた。が、くらしに足りない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふとどこともなく立顕たちあらわれた、世にもすごいまで美しいおんなの手から、一通玉章たまずさを秘めた文箱ふばこことずかって来て、ここなる池で、かつて暗示された、別な美人たおやめが受取りに出たような気がしてならぬ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただその玉章たまずさは、お誓の内証ないしょの針箱にいまも秘めてあるらしい。……
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はしに小さな芋虫いもむしを一つくわえ、あっち向いて、こっち向いて、ひょいひょいと見せびらかすと、籠の中のは、恋人から来た玉章たまずさほどに欲しがって駈上かけあが飛上とびあがって取ろうとすると、ひょいとかおを横にして
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両手にひろげし玉章たまずささっと繰落して、地摺ちずりに取る。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)