燗鍋かんなべ)” の例文
十太夫がやり返そうとすると、おわかが小女たちと共に、角樽つのだる片口かたくちや、燗鍋かんなべをかけた火鉢などを運んで来、賑やかに燗の支度を始めた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
有働良夫氏の話に肥後の菊池では村民の不都合な者を排斥することを「燗鍋かんなべかるわせる」という。すなわち炊具一つ負わせて居村を追い出すことだ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女は何か云って会釈しながらともの方へ往ったが、すぐ一つの膳へ魚の煮たのを盛った皿や、めしのつけてある茶碗などを乗せて燗鍋かんなべといっしょに持って来た。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
又「あの雪崩口なだれぐちでな、何もお客様に愛想がねえから、あったまる様に是れを上げたいものだ、己がこしらえるからお前味噌で溜りをこしらえて、燗鍋かんなべの支度をして呉んな」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勘次かんじちひさな時分じぶんからあなどられてかされた。かれおそろしい泣蟲なきむしであつた。かれ何時いつにか燗鍋かんなべといふ綽名あだなけられた。かれこゝろいくれをきらつたかれない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
燗鍋かんなべ、重箱、塩辛壺しおからつぼなど、それぞれ自分の周囲の器を勝手口に持ち出して女房に手渡し、れいの小判が主人の膝もとに散らばって在るのを、それも仕舞いなされ、と客にすすめられて
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
丸行燈まるあんどんが一つ、赤あかと炭火のおこっている手焙てあぶりが二つ、さくらの脇に燗鍋かんなべをのせた火鉢があり、それには燗徳利かんどくりが二本はいっていた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
燗鍋かんなべ囲炉裡ゐろりにかけて玉子を二ツ三ツポン/\と中に入れましたが早速さつそく玉子酒たまござけ出来できました。女
それでは燗鍋かんなべさかずきなどがあるかと思って行燈の下を見た。燗鍋も盃も皿もなにもなかった。彼は手にしていた脇差わきざしを行燈のかざして見た。刀にはすこし異状がないでもなかった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その八帖にはもう膳が出てい、火のよくおこった火鉢には燗鍋かんなべが湯気を立てていたし、派手な色の座蒲団が二枚出してあった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
婢は燗鍋かんなべってしゃくをした。平三郎はそれをぐっと一口に飲んだ。酒は苦かった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
のみやアしねえ、今日けふ治衛門ぢゑもんさんのところへつてもさけまなかつた、うちに買つてあるのを知つてゐるから。女「それでもさけくさいよ。伝「燗鍋かんなべ玉子酒たまござけがあつたからそれをんだ。 ...
娘たちは互いにわけもなくはしゃぎながら、甲斐の前に古びた毛氈もうせんをひろげ、重詰を並べたり、手籠から燗鍋かんなべさかずきはしなどを取出して、手まめに酒の支度をした。
婢は右の手に燗鍋かんなべさかずきを持ち、左の手にさかなを盛った皿を持っていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おみやは膳拵ぜんごしらえをし、燗鍋かんなべに酒を注いで火桶にかけながら、「それからどうして」とあとを訊いた。
父親は女にあいそを云い云い燗鍋かんなべの酒を、さかずきいで飲んだ。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
火鉢に燗鍋かんなべ、徳利に角樽つのだる、それからさかずきだけのせたぜん。それらを運んでいるうちに源次郎が来た。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あんなことを」おみのは火鉢の脇に坐り、掛けてある燗鍋かんなべに触ってみながら、したたるようになまめかしいながし眼をくれた、「——今夜は泊るつもりでって、手紙に書いてあげたでしょう」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがておくみが、燗鍋かんなべと銚子を持って来た。銚子を膳の脇に置き、こちらの火鉢に燗鍋を掛けてから、甲斐のほうを見て、そんなところにいて寒くはないか、と訊いた。気持がしずまったのだろう。