火焔くわえん)” の例文
同胞兄弟です、僕は暖炉ストーブに燃え盛る火焔くわえんを見て、無告の坑夫等の愁訴する、怨恨ゑんこんの舌では無いかと幾度いくたびも驚ろくのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
或日瀧口、閼伽あかみづまんとて、まだけやらぬ空に往生院を出でて、近き泉の方に行きしに、みやこ六波羅わたりと覺しき方に、一道の火焔くわえんてんこがして立上たちのぼれり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
……當時たうじのもの可恐おそろしさは、われ乘漾のりたゞよそこから、火焔くわえんくかとうたがはれたほどである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平八郎は難波橋なんばばし南詰みなみづめ床几しやうぎを立てさせて、白井、橋本、其外若党わかたう中間ちゆうげんそばにをらせ、腰に附けて出た握飯にぎりめしみながら、砲声のとゞろき渡り、火焔くわえんえ上がるのを見てゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
右の岸の悪魔が大きな岩を雨かあられのやうに投げつければ、左の岸の悪魔は、まるで火山のやうに口から火焔くわえんを噴き出すといふ具合で、互に魔法のありつたけを尽して戦争しましたが
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
東京は今なほ火焔くわえんの海の中にある。首相も死に、大臣の数人も死んだ。ただ宮城の損害が比較的すくなく避難民のために既に宮城を開放した。仏蘭西フランス大使館、伊太利イタリー大使館は全く破壊した。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「狼より凄い奴だ、牛ほどでつかい、——犬は犬でも、火焔くわえんを吐きさうな犬だ」
自分の全身にはほとん火焔くわえんを帯びた不動尊もたゞならざる、憎悪ぞうを怨恨ゑんこん嫉妬しつとなどの徹骨の苦々しい情が、寸時もじつとして居られぬほどにむらがつて来て、口惜くやしくつて/\、忌々いま/\しくつて/\
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
げんに斯かる法の行はるる所にては火の付きたるホクチ樣のものをくさつつ空中くうちうに於てはげしくうごかすなり。コロボツクルも此仕方このしかたを以てえ草に火焔くわえんうつし、此火焔をば再びたきぎてんぜしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
恐ろしき飛躍なる哉、火焔くわえんの散らふに似たり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
遠い岬に曳きはへる、と、余光よくわう火焔くわえん
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
火焔くわえんの心を有し、蜜の唇を有して
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)