溝端どぶばた)” の例文
いよいよ谷深く、水がうるしを流した溝端どぶばたに、いばらのごとき格子さき、消えずに目に着く狐火が一つ、ぼんやりとして(蔦屋つたや)とある。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ツァウォツキイは今一人の破落戸ごろつきとヘルミイネンウェヒの裏の溝端どぶばた骨牌かるたをしていた。そのうち暗くなって骨牌が見分けられないようになった。
がけ溝端どぶばた真俯向まうつむけになって、生れてはじめて、許されない禁断のこのみを、相馬の名に負う、轡をガリリと頬張る思いで、馬の口にかぶりついた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒塀くろべいの、溝端どぶばた茣蓙ござへ、つかれたやうに、ほつと、くのひざをついて、婦連をんなれんがいたはつてんでした、ぬるまで、かるむねをさすつた。そのをんな風情ふぜいなまめかしい。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やつひとどんぶり、それでも我慢がまんたひらげて、「うれしい、お見事みごと。」とめられたが、歸途かへりみちくらつて、溝端どぶばたるがいなや、げツといつて、現實げんじつ立所たちどころ暴露ばくろにおよんだ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老耄おいぼれ儒者めが、うち引込ひっこんで、溝端どぶばたへ、きりなえでも植ゑ、孫娘の嫁入道具の算段なりとしてれば済むものを——いや、何時いつの世にも当代におもねるものは、当代の学者だな。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くもをかくしたさくら樹立こだちも、黒塀くろべいくらつた。舊暦きうれきぐわつ二十一にちばかりの宵闇よひやみに、覺束おぼつかない提灯ちやうちんひとふたつ、をんなたちは落人おちうど夜鷹蕎麥よたかそばかゞんだかたちで、溝端どぶばたで、のどにつかへる茶漬ちやづけながした。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)