涸渇こかつ)” の例文
さしもの幕府のくらの金塊も、放漫な経理と、将軍綱吉や、その生母桂昌院けいしょういんの湯水のごとき浪費とで、近年は涸渇こかつひんしてきたのである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
才能の涸渇こかつだろうか? 肉体の衰弱による自信の減退だろうか? あえぎながら、彼は、殆ど習慣の力だけで、とぼとぼと稿を続けて行った
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そして、悲しみや弱さや孤独のために、数年来腐食され涸渇こかつされて死滅にゆだねられてる人々の心を、またよみがえらせていった。
シューベルトは歌劇オペラ交響曲シンフォニー弥撒ミサ、室内楽、歌曲リード、その他あらゆる形式の作曲をし、かつてその天才の泉の涸渇こかつする気色も見せなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
クルック・タグの山麓さんろくには、海面下千フィートの深地がある。かつての鹹湖かんこは今は大部分涸渇こかつして、塩床のけわしい砂礫地されきちである。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
古い文化の涸渇こかつと腐敗を見透し、自身の生存のためにも新しい生活と文化との建設の必要をますます自身の問題として感じるようになって来ている。
今日の文化の諸問題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それならば情涙の涸渇こかつしたと思っていたこの薄雲太夫の後身にもやっぱり人並の思いやりはあるのだ。ただ私に対して同情をいだかないばかりなのだ。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ドリスが端倪たんげいすべからず、涸渇こかつすることのない生活の喜びを持っているのが、こんな時にも発揮せられる。
活動かつどうさきんじて池水ちすい涸渇こかつするのが通常つうじようであるけれども、突然とつぜん爆發ばくはつして池水ちすい氾濫はんらんせしめたこともある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
遊ぶに軍費というやつが涸渇こかつしているから、遊びらしい遊びは出来ないが、今度のはれっきとした兵糧方がついている、なんと面白かりそうではないか——行って落着く住居までが
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それすら一、二句を得れば即ち思想涸渇こかつしてまた一字を吐く能はず。あるいは奉納の行燈あんどんに立ち寄りて俗句に感ぜし事もあり、あるいは月並つきなみの巻を見て宗匠輩の選評を信仰せし事もあり。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
垣の上の女もとうとう思想が涸渇こかつした。察するに、彼は思想の涸渇を感ずると共に失望の念をすことを禁じ得なかったであろう。彼は経験上こんな雄弁をろうする度に、誰か相手になってくれる。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
涸渇こかつしてしまったのであろうか? 私は他人の印象から、どうかするとその人の持ってる生命力とか霊魂れいこんとかいったものの輪郭りんかくを、私の気持の上に描くことができるような気のされる場合があるが
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
十八世紀の始め頃欧州で虚栄に満ちた若い婦女が力なき老衰人に嫁する事しきりなりしを慨し、閹人の種類をことごとく挙げて、陽精涸渇こかつした男に嫁するは閹人の妻たるに等しく何の楽しみもなければ
「軍の機秘きひ。実は味方に秘しているが、君だからもうほんとのことをいってしまう。実は、すでに涸渇こかつして、今月を支えるだけの兵糧しかないのだ」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
激しい憤りが頭の中でうずを巻いた。老母や幼児のことを考えると心はけるようであったが、涙は一滴も出ない。あまりに強い怒りは涙を涸渇こかつさせてしまうのであろう。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
天才は少しも涸渇こかつしてはいなかったが、沈滞と破滅とに打ち任せられていた。
如何ともなし難い重患だが、幸いにも、敵はただその涸渇こかつを待っていて、積極的に、わが通路を断とうとしない。——これなおわが余命のある所以ゆえんだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分に生を愛さしてくれたそのうるわしい芸術が、突然行きづまって涸渇こかつし地面に吸い込まれてしまいはすまいかと、びくびくしていた。クリストフはそういう意気地いくじない考えを面白がった。
魏が、敢えて戦わず、長期を持している真意は、あきらかに蜀軍の糧食涸渇こかつを待つものであるはいうまでもない。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は窓を開いた。それから涙を流しながら耳を傾けた。音楽は雨に似ていて、彼女の涸渇こかつした心に一滴ずつしみ込み、その心をよみがえらせた。彼女はふたたび、空を星を夏の夜をながめた。
敵も、寄手の長囲策ちょういさくと、粮食ろうしょく涸渇こかつにあせって、時折は、戦いをいどんで来るが、秀吉は厳重に令して
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵糧米の涸渇こかつはすでに幾月も前からだが、しかもなお、城兵の意気はあのようにさかんである。死を
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、寺侍の株を買い、以来、ぷつんと、ひき籠ったきり、世間のうわさを避けていたが、その坐食の資本もとも、去年あたりで、涸渇こかつしてしまい、同時に、病気がちになっていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、それは万一の備えとして、涸渇こかつさせたくなかった。また今、宇喜多家からそれを取り上げることは、山陽方面の経済上からみても人心の影響から考えても、決して善策でない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川水の涸渇こかつしているときは、河原の水は大きな一筋にしかなっていないが、水源地の山岳に雨が降りかさむと、忽ち、ここの広い盆地は、あたかも人間の動脈と静脈のように無数の水脈を描き出す。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣中の兵糧は涸渇こかつを呈した。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)