浮名うきな)” の例文
君はこう云う「和歌うた」知ってるかい? 「なげきわび 身をば捨つとも かげに 浮名うきな流さむ ことをこそ思え……」
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
こんな人達と繁々しげ/\往来ゆききをすれば、兎角浮名うきなの立つ世間である。喜田博士は歴史家だけに、そんな事はよくわきまへてゐた。
御法ごほうによって男女ふたりとも、生きながらのさらし者となり、ふぐったむくいとはいえ、浮名うきなというには、あまりにもひどい人の目や指にとり巻かれている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、日がつに従うて、見もせず聞きもせぬけれど、浮名うきなが立って濡衣ぬれぎぬ着た、その明さんが何となく、慕わしく、懐かしく、はては恋しく、憧憬あこがれる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
○およそ 菅神をまつやしろにはおほかたは雷除らいよけ護府まもりといふ物あり。此 御神雷の浮名うきなをうけ玉ひたるゆゑ、 神灵しんれいらいいみ玉ふゆゑに此まもりかならずしるしあるべし。
蒲「さうさう、それ、あの時分浮名うきなやかましかつた、何とか云つたけね、それ、君の所に居つた美人さ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これは久しき前よりの事に候へども、御存じの通の私が身持、昨日きのうは誰今日きょうは誰と浮名うきなの立つを何とも思はず、つひこの頃までも親方と私との中は知らぬ人なき位に候ふ事とて
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
昔は水戸様から御扶持ごふちを頂いていた家柄だとかいう棟梁とうりょうせがれに思込まれて、浮名うきなを近所にうたわれた風呂屋の女の何とやらいうのは、白浪物しらなみものにでも出て来そうな旧時代の淫婦であった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勿論深草を尋ねても鐙はなくって、片鐙の浮名うきなだけが金八の利得になったのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「まあ、ようござんす、どのみち浮名うきなを立てられるうちが、人間の花ですからね」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
色廓くるわはつい程近く絃歌は夜々に浮き立ちて其処此処そこここの茶屋小屋よりお春招べとの客も降るほどなれど、芸道専一と身を占めて、ついぞ浮名うきなも流さぬ彼女も、ふと呉羽之介を見初みそめてより
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あついにつけ、さむいにつけ、せつないおもいは、いつも谷中やなかそらかよってはいたが、いまではおまえ人気娘にんきむすめ、うっかりあたしがたずねたら、あらぬ浮名うきなてられて、さぞ迷惑めいわくでもあろうかと、きょうがまで
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
眉山が一葉いちよう女史との浮名うきなを歌われたのもその頃であった。
浮名うきなをいとはばふねにのれ
浮名 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
○およそ 菅神をまつやしろにはおほかたは雷除らいよけ護府まもりといふ物あり。此 御神雷の浮名うきなをうけ玉ひたるゆゑ、 神灵しんれいらいいみ玉ふゆゑに此まもりかならずしるしあるべし。
大納言様の道ならぬ浮名うきなの恋でございます。しかも相手はとんだいやしい田舎娘いなかむすめ。いや、これだけはっきり尻尾しっぽつかんだら、それこそ大納言様の名声もたちどころ、と云ったよりどころでござりますぞ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
その頃、かくれもない問題だったと聞いているふたりの浮名うきなは。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)