殿方とのがた)” の例文
けれどもあなたはまだお若くて、殿方とのがたにまつたくお近づきがないのですからね。御自分で用心なさるやうにと思ふのですよ。
「ヴィールさん、私にはあまり差し出がましくて、承諾していいか悪いか分かりません。それに、私たちの会話は若い殿方とのがたの感情をどんなに害するでしょう」
貴方あなた祕密ないしよが、わたしにはれましても、お差支さしつかへのないことをおらせまをしませうか、——あんま御心配ごしんぱいなすつておいとしいんですもの。眞個ほんとに、殿方とのがたはおやさしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殿方とのがた交際まじわりはどうしてああさっぱりと行きとどいているのだろうと、お艶は涙のこぼれるほどうれしかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あとは、髮へさはつたとか、變な眼で見たとか、——女同士の喧嘩の種は、殿方とのがたにはわかりやしません」
乳母 ほんに、うまいことを被言おっしゃる。事壞ことこはしのため出來できひとぢゃといの! あの、殿方とのがたえ、ロミオの若樣わかさまには何處どこへゐたらはれうかの、御存ごぞんじならをしへてくだされ。
犬は喰はねど煩悩ぼんのうの何とやら血気けっきの方々これを読みたまひてその人もし殿方とのがたならばお客となりて芸者を見ん時、その人もし芸者衆げいしゃしゅならばお座敷かかりてお客の前にでん時
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして何處でもようござんす、目立めだたない片端かたはしに席をおとんなさい。ゐたくなければ、殿方とのがたが這入つていらしてから、長くゐる必要はありません。
乳母 さいな、あのかたはッしゃるには、行儀ぎゃうぎもよければ深切しんせつでもあり、男振をとこぶりはよし、器量人きりゃうじんでもあり、流石さすが身分みぶんのある殿方とのがたらしう……おかゝさまは何處どこにぢゃ?
いゝえ、つゞれさせぢやありません。蟋蟀こほろぎは、わたしだいすきなんです。まあ、きますわね……可愛かはいい、やさしい、あはれなこゑを、だれが、貴方あなた殿方とのがただつて……お可厭いやではないでせう。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ヂュリ はゝさまは何處どこにぢゃ? 母樣はゝさまうちにぢゃ。何處どこかしゃらうぞ? なにやるぞい!「あのかた被言おッしゃるには、身分みぶんのある殿方とのがたらしう、お母樣かゝさま何處どこにぢゃ?」
そんな場合には、とかく、殿方とのがたが特別に必要ですからね。中でもロチスター氏は社交界でも、多才ではなやかな方ですから、何誰どなたにでもかれてゐらつしやると思ひますの。
……それも殿方とのがたのだと、なんですけれど、やさしい御婦人ごふじんのおでしたからひろひました。もつとも、あの、にせて殿方とのがたのてのやうにいてはありますけれど、それ一目ひとめればわかりますわ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)