)” の例文
赤く霧をかしている火の側から、男たちは登に呼びかけ、笑いながら、向うで聞える騒ぎのほうへ肩をしゃくってみせた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
戸外そと朧夜おぼろよであった。月は薄絹におおわれたように、ものうく空を渡りつつあった。村々は薄靄うすもやかされ夢のように浮いていた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
し方のことを考えても縹眇ひょうびょうとした無限の中に融け、行く末のことはいよ/\思い定められぬ晦冥かいめいの中にけております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鱗をいたような微塵模様となるうちに、今度は……細長い指のようなものが、っと光って白く……泡の外へ行列うじのように消えてゆくのだった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
東作のは吉原の花魁おいらん道中の図で、これは又ロスコー氏の分と正反対にかし、色彫り、化粧彫りなぞいう、あらゆる刺青の秘技を発揮した豪華版が
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それはよかった。いい加減にかされてしまうんじゃ、思いが残るから。なんだっていいんだ、訳さえわかれば」
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
縹渺ひょうびょうとしたところがある。裾の辺が朦朧とけ、靄でも踏んでいるのだろうか? と思わせるようなところがある。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
池のはたに出ていたふきとうがのびだした。空がかされて日の影がなく日が暮れた。春がめぐって来たのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私はまあそう思いますねぐらいのところでかしながら、やっこさん俺のことを、やれ資産のある紳士だとか、『上流社會』の、閨淋しさをかこっている獨身者だとか
わたしは……」と小野さんは後をかしてしまう。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天上の虹のやうにかされてしまつてゐた。
プルウストの文体について (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
その鰹の肉片が片側藁火に焙られて、不透明な焼肉の色から急速に生身の石竹色にけてゐるのをまじ/\と見詰めながら、桑子は師匠に云つた。
花は勁し (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
と、はげしい湯の音がして飛沫しぶきがかかると、淡紅色ときいろの、やっとした塊りが、眼前のもやのなかにあらわれました。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
血のあかはひときわく、ポッテリとした鱗粉の厚みを感じさせながら、えもいえぬニュアンスで下翅のほうへけ、ギザギザになった縁辺は、この世で想像しうる
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紫陽花あじさい色にかされている。とは云え煙りこめているのではない。それは光の加減からであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うす月の光を吸って、合歓木の花が夢のようにおぼろに夜空をかしていた。三歩を隔てて垣根があり、男はその外に来て待っていた。——奈尾は合歓木の樹蔭へ身を寄せた。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の行動を批判する彼自身のめたい正義観念もまざっていたが、要するにそんなような種々雑多な印象や記憶の断片や残滓ざんさいが、早くも考え疲れに疲れた彼の頭の中で、かしになったり
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかしもうその時には、塔の上層に黎明れいめいが始まっていて、鐘群の輪郭がっと朧気おぼろげに現われて来た。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
紙燭ししょくが明るくともっている。その光に照らされて、そういう色々の商売道具が、あるいは光りあるいは煙り、あるいはかされている様が、凄味にも見えれば剽軽ひょうきんにも見える。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朧月おぼろづきが空にかかっていた。四辺あたりが白絹でも張ったように、微妙な色にかされていた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝霧のために、防波堤の形は少しも見えないのであるが、その足元で、砕ける波頭だけは、っと暗がりのなかに見えた。艇を進め、入江に入り込んだとき、霧はますますひどくなってきた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
人の往来ゆききも稀であった。右近丸は歩いて行く。夕陽が明るく射している。家々のしとみが華やかに輝やき、その代り屋内が薄暗く見え、その屋内にいる人が、これも薄暗くかされて見える。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
敵勢の背後うしろ、家並の軒、月光の射さない一所に、じっとこっちを見詰めながら、スラリと立っている人影である。黒頭巾で顔を隠している。黒の振り袖を纒っている。裾が朦朧とけている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
窓から射し込む月の光で、部屋中薄蒼くかされている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)