数々しばしば)” の例文
旧字:數々
斯ういう噂の立ったのは夏も終りの八月のことで、噂は噂だけに止どまらず、実際幾人かの五才迄の子供が数々しばしば行衛が不明になった。
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庸兵をはなって之を追い、殺傷甚だ多し。このえきや、燕王数々しばしばあやうし、諸将帝のみことのりを奉ずるを以て、じんを加えず。燕王も亦これを知る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
実は斯く言ふ予自身も翁に対して数々しばしば不快の念を抱いた者だ。或時翁と新聞社の卓子つくえの上で衝突した。原因は忘れたが、何でも予が生意気なことを言つたに相違ない。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
唯僕は前に挙げた「伝記私言数則」の中に、「天みづから言はず、人をして言はしむ、されど人の声は、必ずしも天の声と一致せず、人の褒貶毀誉ほうへんきよは、数々しばしば天の公裁と齟齬そごす。 ...
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かくも僕はそういう少年でした。父の剛蔵はこのことを大変苦にして、僕のことを坊頭臭ぼうずくさい子だと数々しばしば小言こごとを言い、僧侶ぼうずなら寺へやっしまうなど怒鳴ったこともあります。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
神巫いちこたちは、数々しばしば、顕霊を示し、幽冥ゆうめいを通じて、俗人を驚かし、郷土に一種の権力をさえ把持はじすること、今も昔に、そんなにかわりなく、奥羽地方は、特に多い、と聞く。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四辺あたりに人眼が無い折などには、文三も数々しばしば話しかけてみようかとは思ったが、万一ばんいちに危む心から、暫く差控ていた——差控ているはしろ愚に近いとは思いながら、尚お差控ていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それを相手の女に寄せさせたことが数々しばしば有った、実に頼もしい有難いおっかさんで、坊ちゃん挙周はお蔭で何程いくら好い男になっていたか知れない。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女子 (ヨハナーンを数々しばしば接吻し)昔のように、さあしっかりとだかっておいで、もっとしっかりと緊かりと。(ヨハナーンの顔を熟視し)姉様をようくようくごらんなさいよ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
独で画を書いているといえば至極温順おとなしく聞えるが、そのくせ自分ほど腕白者わんぱくものは同級生のうちにないばかりか、校長が持て余して数々しばしば退校をもっおどしたのでも全校第一ということが分る。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
思いも寄らぬ蜜柑みかんの皮、梨のしんの、雨落あまおち鉢前はちまえに飛ぶのは数々しばしばである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかれども塞外さくがいの事には意を用いること密にして、永楽八年以後、数々しばしば漠北ばくほくを親征せしほどの帝の、帖木児チモル東せんとするを聞きては、いずくんぞ晏然あんぜんたらん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
云うまでも無く神体です——斯ういう祠はこの時ばかりで無く、亜弗利加の内地へ這入ってからは是れ迄も数々しばしば見て居ましたから、私はその時その祠を見ても別に驚きはしませんでした。
燕王兵を挙ぐるに及び、日に召されて謀議に参し、詔檄しょうげき皆孝孺の手にづ。三年より四年に至り、孝孺はなは煎心せんしん焦慮しょうりょすと雖も、身武臣にあらず、皇師数々しばしば屈して、燕兵ついに城下にいたる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)