手入ていれ)” の例文
そしてその物置へは多少の手入ていれを加えて、つまり肺結核の大学生を置いてやることにしたという。或る日この大学生は縊死いしげた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
それは現世げんせですることで、こちらの世界せかいでは、そなたもとおり、衣服きものがえにも、頭髪おぐし手入ていれにも、すこしも人手ひとでらぬではないか。
それは少々著古きふるされてはいたけれど、さっぱりと手入ていれがしてあって、肱などもきちんとしており、補布つぎなどはどこにもあたっていなかった。
ピストルの手入ていれをしてみたくなったり……大風の音をきいているうちに、短刀をふところにして歩いてみたくなったり……よく切れる剃刀かみそりを見ると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつ今より後毎年一度甲冑あらためを行い、手入ていれを怠らしめざるようにせられたいというのである。順承はこれを可とした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
母さまのお許しと後見こうけんなしには其處までさへも來られない、憐れな弱蟲よわむしさん! 自分の綺麗な顏だの、白い手だの、小さな足だのゝ手入ていれに魂を奪はれてゐる人たち
この邸は昔アンブルメディの僧侶が住んでいた所であって、仏蘭西フランス大革命の戦争の時ひどく破壊されたのを、ジェーブル伯爵が買って手入ていれをしてから二十年も経っている。
大久保相模守さがみのかみは板倉伊賀守いがのかみ床几しょうぎを並べて、切支丹きりしたんの宗徒の手入ていれを検視していた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その中の一ツは出入りの安吉やすきちという植木屋が毎年々々手入ていれの松の枯葉かれは、杉の折枝おれえだ、桜の落葉、あらゆる庭の塵埃ちりあくたを投げ込み、私が生れぬ前から五六年もかかってようやくに埋め得たとう事で。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
あとが女と子供ばかりで困るもんだから、何かにつけて、叔父おじさん叔父さんて重宝がられましてね。それに近頃はうち手入ていれをするんで監督の必要が出来たものだから、殆ど毎日のように此所ここの前を
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お葉の眼には涙が見えたが、って再び座敷へかえった。とこ花瓶はないけにはの椿が生けてあって、手入ていれ所為せいでもあろう、紅い花は已に二輪ほど大きくほころびていた。彼女かれその枝を持って出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その手入ていれを加えた物置というのは、今の学生二人のいる表二階の一室ひとまで、人間の身のけぐらいに白い光りの見ゆるのが、その大学生が縊死いしげた位置と寸分違わない。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
その目的で僕は建物たてものを一つ借りておきました。それには先生の家として二間ある小屋が附屬してゐます。俸給は年三十磅です。極く質素ですが、家は十分にもう手入ていれが出來てゐます。
やっと葬送をすましたのがつい二ヶ月程前であるが、折角せっかく手入ていれを加えてただ空けておくのも何だから、お借し申したような次第であるが、さては左様でございますかという。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)