意趣いしゅ)” の例文
とにかくに意趣いしゅも遺恨もない人間を七人までも斬ったと云うのは、考えてもおそろしい事です。気が狂ったに相違ありますまい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『何の意趣いしゅがあって、他家へ嫁がせる娘にあらぬ悪罵あくばを浴びせたのみか、娘の部屋へ忍び入ったか。その返答を承まわろう』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうなれば屹度きっとこの間の意趣いしゅを返すに違いはありません、なんでも彼奴が一件を立聞たちぎきしたに違いないから、貴方あなたうかして孝助を殺して下さい
数馬かずま意趣いしゅを含んだのはもっともの次第でございまする。わたくしは行司ぎょうじを勤めた時に、依怙えこ振舞ふるまいを致しました。」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしは、それをたゞ昨日の意趣いしゅ返しとばかり思ってひたすら無関心の工夫をしていますと、彼女はしまいに
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれども、もともと意趣いしゅがえしをするつもりなのですから、さしかえるときに、わざとしくじって、小さなろうそくは、ころりとひっくりかえって消えました。
その方にたいしなんの意趣いしゅをもいだかぬし、又そのほうもこのうえ義理をたてるところもないであろう。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
左膳への意趣いしゅ返しには弥生のいどころを知ったお藤、ひそかに何事か胸中にたたんで、わななくお艶をいそがせて庭に立ったが、まもなく化物屋敷の裏木戸から
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふるびついたる戟共ほこどもおなじく年老としおいたる手々てんでり、汝等なんぢらこゝろびつきし意趣いしゅ中裁ちゅうさいちからつひやす。
しばらくは意趣いしゅに見返すふうだったが、やがて一種の恐怖に襲われたらしく、干し物を竿さおに通しもせずにあたふたとあわてて干し物台の急な階子はしごを駆けおりてしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
掏摸すり仕業しわざだと思えばそれまでの事であるが、またどうやら意趣いしゅある者の悪戯いたずらではないかという気がしたのは、その猫の子の死んだのが貸間の押入に投入れてあった事である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに腕力で負けた意趣いしゅばらしにナイフでも振りまわすのかという疑念があった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また、時には意趣いしゅがえしに、えらい音楽家のきょくを自分のだとうそをいって、たちのわるい悪戯いたずらをすることもあった。そして小父おじがたまたまそれをけなしたりすると、彼はこおどりしてよろこんだ。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
雪さんに意趣いしゅがえしをするなら、おいらの目の前で、一寸だめし、五分だめしに逢って、のた打ちまわるところを、この目で見てやりたい——一件を三斎隠居に訴えるようなことをしたら、あの人は
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「三右衛門、数馬かずまはそちに闇打ちをしかけたそうじゃな。すると何かそちに対し、意趣いしゅを含んで居ったものと見える。何に意趣を含んだのじゃ?」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
意趣いしゅ遺恨いこんもない通りがかりの人間を斬り倒して、刀の斬れ味を試すという乱暴な侍のいたずらであった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
坂上主膳さかがみしゅぜんという武士のために、楯岡たておかの藩祖の菩提寺ぼだいじのすこししも手町の辻で斬られたのであった。原因は意趣いしゅ、そのつまびらかな事実は、おまえがもっと大人になれば自然分ってくる。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべっこい大理石の柱のように思ったものが何か意趣いしゅうかべて来て、「おゝ/\」と言いながらわたくしの手を握り締め、それから象牙ぞうげ細工のような磨かれた顔がすっと寄って来て
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二人はわざと意趣いしゅに争ってから、妹はとうとう先に寝る事にする。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それだけの意趣いしゅで竹馬の友ともいうべき堀口を殺害するとは、何分にも解し難いことであるという説もあったが、それを除いては他に子細がありそうにも思えなかった。
妖婆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
意趣いしゅに、当家のことを悪しざまにざんされても困る。伊木、何とかしておけやい
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしは先生に何か他に別な意趣いしゅがあるとよりしか思われません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それらの事実から考えると、どうしても普通の物取りではなく、なにかの意趣いしゅらしいという。この鳥打帽の男は宇都宮の折井という刑事巡査であることを後にて知りたり。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『かまきり、何だって俺を。……何も俺に意趣いしゅも恨みもあるめえに』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「菊地半九郎はそれほど卑怯な男でない。さしたる意趣いしゅ遺恨いこんもないに、朋輩ひとりを殺したからは、いさぎよく罪を引受けるが武士の道だ。ともかくも市之助に逢って分別を決める」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『恋の意趣いしゅは、古来からおそろしいものに極っている』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この画は人間の体勢に巧みであるが、人間の意趣いしゅというものが本当に現われていない。わたしはこの画に対してなんらの筆を着けずに、一層の精彩を加えてお見せ申そうと思うが、いかがでしょう」
意趣いしゅ遺恨いこんか、何でおれの足をすくった!」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)