御者ぎよしや)” の例文
霧は林をかすめて飛び、道をよこぎつて又た林に入り、真紅しんくに染つた木の葉は枝を離れて二片三片馬車を追ふて舞ふ。御者ぎよしや一鞭いちべん強く加へて
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
御者ぎよしやは彼女の手荷物と其の子供とをもらものでもしたやうに気おひながら積み込んだ。彼女もそれに打ち乗つた。馬車ははしり出した。彼はそれをなほも見送つてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
御者ぎよしや鼻唄はなうたばし途断とぎれて、馬のに鳴る革鞭むちの響、身にみぬ、吉田行なるうしろなる車に、先きの程より対座の客のおもて、其の容体ようだいいぶかしげにながめ入りたる白髪の老翁
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その御者ぎよしやはこと/″\く女裝せり。忌はしき行裝かな。女帽子の下よりあらはれたる黒髯くろひげ、あら/\しき身振、皆程を過ぎて醜し。我はきのふの如く此間に立ちて快を取ること能はず。
停車場ギヤアルの前には御者ぎよしや台に鞭をてて御者ぎよしや帽をかぶつた御者ぎよしや手綱たづなを控へて居るひんの好い客まちの箱馬車が十五六台静かに並んで居た。ぐ左手に昔の城を少し手入して其れに用ひた博物館がある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
中には掃除車の御者ぎよしやをしてゐる者もある。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はる野路のぢをガタ馬車ばしやはしる、はなみだれてる、フワリ/\と生温なまぬるかぜゐてはなかほりせままどからひとおもてかすめる、此時このとき御者ぎよしや陽氣やうき調子てうし喇叭らつぱきたてる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ハイ——といましむる御者ぎよしやの掛声勇ましく、今しも一りやうの馬車は、揚々として霞門かすみもんより日比谷公園へぞ入りきたる、ドツかとり返へりたる車上の主公は、年歯ねんしくに六十を越えたれども
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
共に車に載せんといひしならぬを、媼の耳うとくしてかく聞き誤りたるなれば、姫ははしたなくや思ひけん、顏さとあかめたり。されど我は思慮するいとまもあらで乘りうつり、御者ぎよしやも亦早く車を驅りぬ。
「畜生、何をフザけやがるツ」御者ぎよしやは続けさまにむちを鳴らして打てり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)