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幸
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かう
持し其翌年女子一人出生しければ
夫婦の喜び云ばかりなく其名をお
幸と
號兩人の中の
鎹と此娘お幸が成人するを
明暮樂しみ
暮しけるとぞ
頻繁に
行方不明になることに思ひ當りました——芝
伊皿子の荒物屋の娘お夏、下谷竹町の酒屋の妹おえん、
麻布笄町で御家人の娘お
幸——、數へて見ると
お
幸の家は
石津村で一番の旧家でそして昔は大地主であつた
為めに、明治の維新後に百姓が
名字を
拵へる時にも、沢山の田と
云ふ意味で
太田と
附けたと云はれて居ました。
お
幸さんは女ながらに私の知己の
一人だ。牧野さんの細君より一つ年の下な若い
叔母さんだ。
故郷の
風景は
舊の
通りである、
然し
自分は
最早以前の
少年ではない、
自分はたゞ
幾歳かの
年を
増したばかりでなく、
幸か
不幸か、
人生の
問題になやまされ、
生死の
問題に
深入りし
忌々しく思ひ仁田村の八と云ふ
獵人の
宅へ
引越居る處へ手先の
幸八と云ふ者此事を
嗅付け
郡代役所へ引行入牢させけるを
兄九郎右衞門聞
込流石憫然に思ひ
内々取繕ひを
居られぬにより直樣宿へ歸り女房お梅に
相談の上昔しの
恩報じに
娘お
幸を