小突こづ)” の例文
あんまりばかばかしいから、小突こづき廻してみたのであります。米友は、これらの連中の譜代の家来でもなければ臨時の雇人でもない。
そして何かいわんとする光秀にその余裕を与えず、ずずずとして、廻廊の欄干らんかんまで押し詰め、もがく頭を、ごつごつ欄干に小突こづいていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヨシ、ごろつき、死ぬまでやってやる」私はこう怒鳴ると共に、今度は固めた拳骨で体ごと奴の鼻っ柱を下から上へ向って、小突こづき上げた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
くさなか半身はんしんぼつして、二人ふたりはいひあらそつてゐた。をとこはげしくなにかいひながら、すぶるやうにをんなかた幾度いくど小突こづいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
仔羊たちが、ごくごく乳を吸っている間、おっさん連は、脇腹わきばらを鼻の頭で激しく小突こづかれながら、安らかに、素知そしらぬ顔で、口を動かしている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
胸倉を取って小突こづきまわされました。「もう出て行く」と紋切型を云われました。引っくり返って足をバタバタされました……かも知れませんでした。
奥様探偵術 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれは激しく罵りながら力まかせに小突こづきまわすと、四郎兵衛はからだを支えかねて、乗りかけた駕籠からころげ落ちた。それを見て駕籠屋もおどろいた。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お由は国太郎の胸を肩で小突こづいて、二人の時だけに見せる淫蕩いんとうな笑いを顔一杯に浮べていた。その濃艶のうえんな表情が、まだはっきりと国太郎の眼に残っているのに——
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ジナイーダが、終りまで言い切らぬうちに、わたしは後ろから誰かに小突こづかれでもしたように、早くも下へ身をおどらしていた。塀の高さは三、四メートルほどあった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
国民はかなり統制に従順な素質をもっていても、こう八方から小突こづかれては迷わざるを得ない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「おい、若いの。先刻さっきからいやに黙ってるじゃねえか。……乙に澄ますねえフェ・パ・マラン・トア、やい!」と、いきなりドア越しにコン吉の脇腹を小突こづいた。コン吉は螽斯ばったのように飛びあがって
思慮もなく、ただ無分別に、うろうろと、あこがれの瞳をよせる少女達に、小突こづきまわされて、かれは当惑した。その上、周囲の教師達の猜疑さいぎと嫉妬との狭量なまなこもいやだった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
肩をゆすりながらおこったようにとなりに坐っている同年配の女の脇を小突こづいた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
出さうでゐて、出ない。氣がジリ/\する。すると何かわきから小突こづくやうに
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そういって、自分のすぐそばで鉋屑かんなくずの中からえりだした木片を持って遊んでいる小さい高子を小突こづいた。思いがけなかったので高子は別に怪我けがをしたわけでもないのにありったけのような声で泣いた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
孫永才は、びくっと頭を起した弟に小突こづかれて顔をあげた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
肩に足をかけて、ぐりぐりと小突こづくと、男は、けろりと見上げて、東儀与力と同じように、拷問道具へ腰を下ろした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人とも、そこに突っ立ったまま、両手をポケットに入れ、素知そしらぬ顔で、踏段ふみだんのほうに気をくばっている。と、やがて、にんじんは、レミイをひじ小突こづく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「いや、おのれが知っている筈じゃ。やい、婆め。おのれは藻をそそのかして江口の遊女に売ったであろうが……。まっすぐに言え」と、千枝松は掴んだ手に力をこめて強く小突こづいた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勝平は、鋭い眼で勝彦をにらみながら、その肩の所を、グイと小突こづいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
水戸はドレゴの脇腹わきばら小突こづいた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
ルピック氏は、真情流露しんじょうりゅうろを逆に行く人物だから、久々ひさびさで彼の顔を見たよろこびを、揶揄やゆの形でしか表わさない。向こうへ往きがけに彼の耳をはじく。こっちへ来がけには、ひじ小突こづく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
浮橋は小突こづいた。そうして、お前が言わなければ言わないでもいい、わたしが直かに主人に訊いてみると八橋は言った。そんなことを主人の耳に入れられては困ると、治六はあわててさえぎった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、目くばせして、ひざ小突こづいた手が、衝立の陰にちらと見えた。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はお花の膝にしがみ付いたかと思うと、更にその胸倉むなぐらをつかんで無暗に小突こづきまわした。相手が酔っているので、お花はどうすることも出来なかった。女中たちはおどろいて燭台を片寄せた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お清の腕を掴んで又小突こづいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)