好過よす)” の例文
それだのに、今となつて、ほかの人達が自分の真似をするのを嫌つて、その防ぎをしようなんて、余り虫が好過よすぎるよ。
五百が「これはお持たせでございます」といったが、栄玄は聞えぬふりをしていた。調理法が好過よすぎたのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「だって、兄さんが留守勝で、さぞ御淋おさむしいでしょうなんて、あんまり思遣おもいやりが好過よすぎる事をおっしゃるからさ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丁寧にむしって出すのを、うめえ/\と喰うくらいの事じゃねえ、あんまり仲が好過よすぎてネ、遂々とう/\赤ん坊が出来た
虫が好過よすぎらあ——神尾さん、あんたのおかげで、罪もねえ奥様や、また弟御おとうとごや伊豆伍夫婦まで召し捕られてつい御詮議せんぎ憂目うきめを見ていなさるのを、あんたは
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
吉田はそのお婆さんからはいつも少し人の好過よすぎるやや腹立たしい印象をうけていたのであるが
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
冗談は兎に角、絹子さん、あなたは御器量が好過よすぎますよ。それで却って苦情が出るんです。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「私はあんまり人が好過よすぎるなんて言はれますから……今度は何物なんにも置いて行きません。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
冗談じょうだんじゃねえ。おせんのつめが、んでほどれるもんか、おめえもひと好過よすぎるぜ。春重はるしげだまされて、気味きみわるいのおそろしいのと、あたまかかえてかえってくるなんざ、おわらぐさだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
へエ、新六郎さんの實の親で良い方でございました。人が好過よすぎて、商賣の手違ひから、危なく身代限りになり、板倉屋の株まで賣りに出したのを、弟分の今の御主人が買ひ取つて、この身上を
爺さんもそれを余り虫が好過よすぎると思つて居たらしかつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「だつて、にいさんが留守勝るすがちで、嘸御さむしいでせうなんて、あんまり思遣おもひやりが好過よすぎる事をおつしやるからさ」と云ふ言葉があつた。代助は其所そこへ自分をはさんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女「貴方はまアお調子が好過よすぎますよ……ま一杯お酌を致しましょう……何んですね……私の様なものだってサ、本当に貴方のような結構なお身の上はありませんね」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「首になる値打さ。社長を大馬鹿と言って置いて後が勤まると思うのは虫が好過よすぎる」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『何アに、少し位言つてやる方が好い。余り虫が好過よすぎる』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
僕は彼女の執拗しつようにくむよりは、その根気の好過よすぎるところにかえって妙なあわれみをもよおした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銀行の株も持っておいでるし、万事都合つごうがよかったのじゃが——それからというものは、どういうものか急に暮し向きが思わしくなくなって——つまり古賀さんがあまりお人が好過よすぎるけれ
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今までと違って威勢があまり好過よすぎると思ううちに、二人の俥は狭い横町を曲って、突然大きな門をくぐった。自分があわてて、車夫を呼び留めようとした時、梶棒かじぼうはすでに玄関に横付よこづけになっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)