たえ)” の例文
再び高いはしごに昇って元気よく仕事をしていた。松の枝が時々にみしりみしりとたわんだ。その音をきくごとに、私は不安にたえなかった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
嗟乎あゝをしむべし、かゝる美人びじんこの辺鄙へんひうまれ、昏庸頑夫こんようぐわんふの妻となり、巧妻こうさいつね拙夫せつふともなはれてねふり、荊棘けいきよくともくさらん事あはれむたえたり。
柔風やわかぜにもたえない花の一片ひとひらのような少女、はぎの花の上におく露のような手弱女たおやめに描きだされている女たちさえ、何処にか骨のあるところがある。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
有楽座ゆうらくざ始め諸処の演奏会は無論芝居へも意気な場所へも近頃はとんと顔出し致さずしたがって貴兄の御近況も承る機会なくこの事のみ遺憾にたえ申さず候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これはもとより当然の事であえて間然すべきではないが、ただ一人として先生の歌壇における功績に片言も序し及ばなかったのはいかにも物足らぬ感にたえぬのである。
正岡子規君 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ちょっとすれちがいに通って女に顔を見られた時にさえ満面に紅を潮して一人情にたえなかったほどのあどけない色気も、一年一年と薄らいでついに消え去ってしもうた。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ただし肌に寒風の吹通しが有益であるか、または外の摂生をもって体力が強くなって、実際害にるべき寒風にもく抵抗してこれたえうるのであるか、すなわち寒風その物は薬にあら
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
計らざりき東洋の孤客に引きずり出され奔命にたえずして悲鳴を上るに至っては自転車の末路またあわれむべきものありだがせめては降参の腹癒はらいせにこの老骨をギューと云わしてやらんものを
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「アア詰まらんな、実に詰まらん。家へ入ったところがドウセ今夜は寝られない。月がいから少しそのへんでも散歩しようか」と心のうれいたえざるごとく歩を移して中川家の門前へ来れり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「今時の師学倶に文字を葛藤と云ふて、甚嫌択する、実に怪笑にたえたり。」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
嗟乎あゝをしむべし、かゝる美人びじんこの辺鄙へんひうまれ、昏庸頑夫こんようぐわんふの妻となり、巧妻こうさいつね拙夫せつふともなはれてねふり、荊棘けいきよくともくさらん事あはれむたえたり。
国子はものにたえ忍ぶの気象とぼし、この分厘にいたくあきたるころとて、前後のおもんばかりなくやめにせばやとひたすら進む。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私がここに書こうとする小伝の主一葉いちよう女史も、病葉わくらばが、霜のいたみにたえぬように散った、世に惜まれるひとである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)