唐金からかね)” の例文
亭主ていしゆは五十恰好がつかういろくろほゝこけをとこで、鼈甲べつかふふちつた馬鹿ばかおほきな眼鏡めがねけて、新聞しんぶんみながら、いぼだらけの唐金からかね火鉢ひばちかざしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
金網のかかっている大きな唐金からかねの火鉢である。それまで、この広いかみ之間としも之間に、火の気はなかったのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はずれの部屋へ来ている、気楽な田舎の隠居らしい夫婦ものの老人としよりの部屋から碁石の音や、唐金からかねの火鉢の縁にあたる煙管の音が、しょっちゅう洩れて来たが
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
唐金からかねの六匁玉の鉄砲とか、その鉄砲玉とかいうもののおびただしく陳列された中を通って、再び井桁の間の東南隅に戻って、そこから階段を上って、第二重へ出る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
広巳は傍の唐金からかねの火鉢に眼をつけた。広巳はいきなりそれに手をかけた。広栄がその手にすがりついた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
唐金からかねなべしろみを掛けるようなもので、鋳掛屋いかけやの仕事であるが、塩酸亜鉛があれば鉄にも錫が着くと云うので、同塾生と相談してその塩酸亜鉛を作ろうとした所が
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
某が刀は違棚ちがいだなの下なる刀掛に掛けあり、手近なる所には何物も無之故、折しも五月の事なれば、燕子花かきつばたを活けありたる唐金からかねの花瓶をつかみて受留め、飛びしざりて刀を取り、抜合せ
その額はやはり柴忠さんの工夫で厚い硝子張りの箱に封じた上から唐金からかねの網に入れて、絵馬堂の東の正面に、阿古屋の琴責めの人形と並んで上がったのですが、檜の香気かおりのために
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小十郎が山のように毛皮をしょってそこのしきいを一足またぐと店では又来たかというようにうすわらっているのだった。店の次の間に大きな唐金からかね火鉢ひばちを出して主人がどっかり座っていた。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
数寄屋すきや橋の唐金からかね擬宝珠ぎぼしゅは、通行人の手ずれで、あかく光っていた。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「ほらね、唐金からかねだってね。」
亭主は五十恰好かっこうの色の黒い頬のけた男で、鼈甲べっこうふちを取った馬鹿に大きな眼鏡めがねを掛けて、新聞を読みながら、いぼだらけの唐金からかねの火鉢に手をかざしていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金網のかかっている大きな唐金からかねの火鉢である、それへ、紅殻染べんがらぞめ小蒲団こぶとんをかけさせた。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唐金からかね獅噛火鉢しがみひばちの縁に両肱りょうひじを置いて、岩永左衛門が阿古屋の琴を聞いている時と同様の姿勢を崩さない当の談敵はなしがたきが、眼前に眼をなくしていることに、ふいと気がついたものだから失笑し
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いの一番に飛び出したのは黒々くろくろ唐金からかねのお釈迦様でした。
雪の塔 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
右手めてにつかんでいた唐金からかねの水盤、その男の影を狙って、力の限り投げつけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は時々表二階おもてにかいあがって、細い格子こうしの間から下を見下した。鈴を鳴らしたり、腹掛はらがけを掛けたりした馬が何匹も続いて彼の眼の前を過ぎた。みちを隔てた真ん向うには大きな唐金からかねの仏様があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と——廊下の一ぐうで、唐金からかねの水盤らしいものにさわった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)