取極とりき)” の例文
「縁談は二三あるにはあったのですけれど、どれも本人が気に染まないとか申しまして、まだ取極とりきめてはおりませんし、外にも別に……」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その眺望に引きつけられて、幾度も来て見るごとにいよいよ気に入ったので、近い平坦へいたんな太田の原から、兄を連れて来て取極とりきめたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
重い荷物はことごとく駄馬に着けて、近道を黒羽くろばね町まで送り届けて貰う事とし、黒羽町の宿屋は△△屋というのが一等だと聴いたのでそこと取極とりき
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
いつつださうで。……それ持參ぢさんで、取極とりきめた。たつたのは、日曜にちえうあたつたとおもふ。ねんのため、新聞しんぶん欄外らんぐわいよこのぞくと、その終列車しうれつしや糸崎行いとざきゆきとしてある。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その取極とりきめ方はシナの欽差きんさ駐蔵大臣と、それから法王がかくれて後政治をつかさどって居るところの代理の法王とが立ち会い、総理大臣および大蔵、陸軍、宮内
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一人一人、自分の隠した処を知っていても、他の者の処は知らぬので、左様に取極とりきめたのは石見守の智慧ちえじゃ。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
これから相助は龜藏と時藏の所へき此の事を話すと、面白半分にやッつけろと、手筈てはずの相談を取極とりきめました。
おとらは途々みちみちお島に話しかけたが、かく作の事はこれきり一切口にしないという約束が取極とりきめられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いとおぼしめさばお取極とりきくださりませ、此家こゝ貴郎あなたのおうち御座ござりまするものなんとなりおぼしめしのまゝにとやすらかにはひながら、萬一もしそのにてりたらばと無情つれなきおもひ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御国法と申す儀も御一国御一己のお取極とりきめまでにて当時にては万国ともに通商致さざる国とてはこれなきことに候えば万国の例に御随順、通商御始めに相成り候かた貴国の御ために相成るべく候。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
当人同士の見合もさせずに親がいと思うと直ぐ取極とりきめて貰って来るという風習だからな。もしやお登和さんの事を御承諾がなかったらどうしよう。そうしたら僕もほとんどこの世に生存する張合がない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
本来は築地つきじ辺一番便利と存じ最初より註文ちゅうもん致置候処いまだに頃合ころあいの家見当り申さぬ由あまり長延ながびき候ては折角の興も覚めがちになるおそれも有之候あいだ御意見拝聴の上右浅草あさくさか赤坂かのうちいづれにか取極とりきめたき考へに御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まだ卒業前ですから、お取極とりきめは、いずれ学校が済んでからッて事で、のびのびになっていたんだそうですがね。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孝「そう仰しゃるなら仕方がありませんから取極とりきめだけして置いて、身体は十年があいだ参りますまい」
現在は、その地方の百姓の老夫婦が留守番をしているのですが、その人達も僕はよく知っていますから、売買のことはいずれゆっくり取極とりきめるとして、今日からでもそこへ落ちつくことが出来ます。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娘には、惚れてる奴が居ますから、その料簡次第で御話を取極とりきめる、と云うに、不思議はありますまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)