きお)” の例文
鬼王丸が狼狽しながらこう大声に叫ぶと同時に、今まできおっていた部下の兵どもは一度に颯と退いた。バラバラと廻廊へなだれ出る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山口は好人物の坊主のような円顔を急にてかてかきおい込ませると廊下へ出た。彼はそこで、お杉をひと目と、急がしそうに湯女ゆな部屋を覗いてみた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
三、四人が答えて、すぐ道場の横から草履を穿き、庭づたいに、書院の縁へ走ろうとするのを、祇園藤次や植田などの古参が、そのきおい込むたもとをつかまえて
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王者の富、快楽と安逸と自由の保証、なんたる幸運の昂奮こうふんであるか、彼らはわくわくきおい立った
女人を誘拐かどわかす卑怯未練の賊僧はそれよ。容赦なく踏み込んで召捕れやつと大喝すれば、声を合せて配下の同心、雪を蹴立てゝきおひかゝる。一方は峨々ががたる絶壁半天にかかれり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それを聞くと八五郎、すっかりきおい込んで、猟犬のように駆け出しそうな気組になります。
きおんで駕籠かごけた中村松江なかむらしょうこうは、きのうとおなじように、藤吉とうきち案内あんないされたが、さまとおしてもらえるはずの画室がしつへは、なにやらわけがあってはいることが出来できぬところから、ぽつねんと
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかし、アメリカ軍は戦争の終末に近づいて不用意にきおって飛び込んで、かなりひどい犠牲を払ったのだということだ。記念柱の下にはアメリカ人らしい遊覧客が車を二三台乗り捨てて眺めていた。
ヴェルダン (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
きおい立っているいまの心の捌け場を探すもののよう目をやった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
と妙に砕けて、変にきおって、しょげて、笑って、すぱすぱ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、まなじりを決してきおい立つ。コン吉は立ちふさがって
夫人は急にきおい込んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう数えて来ると、我々が「半七塚」を建立して、浅草に一つの名物を加えるのは、まことに意義の深いことではないか、——と若い委員達がきおい立つのも無理のないこである。
所詮しょせんおとこおんなもなく、おせんにっては迷惑千万めいわくせんばんちがいなかろうが、遠慮会釈えんりょえしゃくはからりとてたあつかましさからつるんだいぬくよりも、一そうきおって、どっとばかりにせた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と範之丞はきおっていった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八五郎は少しばかりきおい込みました。
果し眼になってきおう伝吉。
利助はきおい立ちました。