動揺どうよう)” の例文
旧字:動搖
……そんな私の心のなかの動揺どうようには気づこうはずがなく、彼女は急に早足になった私のあとから、何んだか怪訝けげんそうについて来ながら
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼らは思慮も熟せず判断力もかたくないから、見るもの聞くものその他すべて五感に触るるものによりて心の底までも動揺どうようされやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いいかげんな話をして、ただ気持ちを動揺どうようさせるだけでもつまらんからね。話すときには、ゆっくり時間をかけて話すほうがいいんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ふねのはげしき動揺どうようにつれて、幾度いくたびとなくさるるわたくしからだ——それでもわたくしはその都度つどあがりて、あわせて、熱心ねっしんいのりつづけました。
防禦の地に立つ時は九人おのおのその専務に従い一、二、三等の位置を取る。但しこの位置は勝負中多少動揺どうようすることあり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
方二間位のプウルには、青々と水がたたえられ、船の動揺どうようにしたがって、れています。周囲にベンチが二つ、置かれてあるだけのせまい甲板です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おそらく大革命の騒ぎの最中さなかでも、世界大戦の混乱と動揺どうようの中でも、食事の時だけはこういう態度を持ち続けたであろう。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
動揺どうようがさざなみのように胸から胸へつたわった、快活だった次郎が、急に陰気な子になったことも、いつも困難な仕事はまっさきにひきうけたことも
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この言葉ことばは、みんなにすくなからず動揺どうようをあたえました。なかには、また、くすくすわらうものさえありました。
笑わなかった少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつのにか戸はしまっているではないか、いまの列車の動揺どうようのために、ひとりでにしまったのに相違そういない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
いわばカフェを利用して、そんな妙な事をやっていたのだ。追い出したところ、他の女給たちが動揺どうようした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
太夫に認められたことによって、ともすれば動揺どうようしやすい自分の心が、何かこう支柱つっぱりでもかわれたように、しゃんとしてきた。それが彼には何よりも嬉しかったのだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
信一郎の心は、そうした突然の申出を聴いた時、可なり動揺どうようせずにはいなかった。今までの三四分間でさえ彼に取ってどれほど貴重な三四分間であるか分らなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人造人間部隊が粛々しゅくしゅくと行軍を開始して向ってきたので、原地人軍は、さすがにちょっと動揺どうようを見せた。が、先登せんとうに立つ勇猛果敢ゆうもうかかんな酋長は、槍を一段と高くふりまわして、部下を励ました。
「なに、お命頂戴、ただいま参——と。ふウム」動揺どうようした顔がさッと長庵をふり返って、「これ、長庵、悪戯あくぎにもほどがあるぞ。仮りにも、命を貰うとは何だ。ヤイ、命を貰うとは何だッ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに拍車はくしゃをかけたのが、道江の来訪と、それにつづく恭一との手紙のやりとりの間に感じた心の動揺どうようであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
旋風せんぷうにあおられたたこは、つりかごを前後左右にかたむけゆりあげて、黒闇々こくあんあんのなかを飛んでゆく。はげしい動揺どうようのために富士男は眼のくらむのをおぼえた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その後も、小平太はできるだけ自分の心の動揺どうようを同志の前に隠すようにつとめた。もっとも、彼が同志に心のうちをさとられまいとするには、もう一つほかに理由があった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
車の動揺どうようのために、ともすると、よろけそうになるのを、じっとふみこらえて、ランプをかたすみにさしつけると、大きな大入道おおにゅうどうのような影法師かげぼうしがうしろのいたかべにいっぱいうつった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
かれはろうそくをともして室内のすみずみをあらためた、いかにも室内にすこしばかりの水たまりができている、船の動揺どうようにつれて水は右にかたむき左にかたむく。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
先日道江みちえといっしょにたずねて来てもらった時のいきさつもあったので、次郎はその分厚な封書を受け取ると、心にかなりの動揺どうようを感じ、もう落ちついて雑談などしておれなくなった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)