前庭ぜんてい)” の例文
と書きて贈りしその花にさふらふ。奥村氏の前庭ぜんてい紅木槿垣べにむくげがきひまつはりしもその花にさふらふ。翌日ははやほろほろと船室の中にべにこぼさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
棟近むねちかやまかけて、一陣いちぢんかぜわたつて、まだかすかかげのこつた裏櫺子うられんじたけがさら/\と立騷たちさわぎ、前庭ぜんてい大樹たいじゆかへでみどりおさへてくもくろい。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
真暗まっくら前庭ぜんていを横切って、黄色いすじが、なげられていて、入口の扉がしっかりしめられていない事を物語っていた。そして二階の一つの窓には、あかあかと灯りがついていた。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
私は先方から見られぬ様に気をつけて、広い前庭ぜんていをあちこちと探して見たが、老人の姿は消えたかの様に、どこの隅にも発見出来なかった。彼はすでに屋内に這入ってしまったのであろう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白茶色の土坡どはで崖崩れを防ぎ、広く前庭ぜんていを取り廻わした、和洋折衷の瀟洒たる二階家、まず数段の石段を登る、玄関に通ずるコンクリイトの小径、その左手は若木の植込、その右手は書斎の外側
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、その両端が、先刻さっき前庭ぜんていから見た、十二宮の円華窓えんげまどだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そろつて浮足うきあしつて、瑪瑙めなうはしわたると、おくはうまた一堂いちだう其處そこはひると伽藍がらん高天井たかてんじやう素通すどほりにすゝんで、前庭ぜんていけると、ふたゝ其處そこ別亭べつていあり。噴水ふんすゐあり。突當つきあたりは、數寄すきこらしてたきまでかゝる。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)