判然わか)” の例文
くわしい事は判然わかりませんが、その遊神湖という湖の周囲には、歴史以前に崑崙国といって、素敵に文化の進んだ一つの王国があったそうです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
笑うたびに、津田はまた彼女を追窮ついきゅうした。しまいに彼女の名がつきだと判然わかった時、彼はこの珍らしい名をまだもてあそんだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今迄の途なら嶮しくても知つてゐる、此れから先きの途は如何なるとも判然わからないと云ふのか。私は耐らなくなつた。同時に小兒等は大きな聲を擧げて泣き出した。
(旧字旧仮名) / 吉江喬松吉江孤雁(著)
「……その小舟に泳ぎ付く途中で、何だか判然わからないものが水の中から、イキナリ吾輩の左足にカジリ付いたんだ。ピリピリと痛いくらいにね」
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ一面の短い草の原、今まで来た道は何処へやら、さっぱり判然わからなくなってしまった。が仕方がない、川を伝って下りて行った。何だか擂鉢すりばちの底でもめぐっているような思いがする。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
白いまだらと見えたのは顔や、手足や、服の破れ目から露出した死人の皮膚で、それが何千あるか、何万あるか判然わからない。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その刹那の印象が繰返して現われて来たのを見ると、その光りの正体が判然わかり過ぎる位アリアリとわかったのであった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
泣いているのか、笑っているのか判然わからないまま……洋紙のように蒼褪あおざめた顔色の中で、左右の赤い眼が代る代る開いたり閉じたりし初めました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「何か判然わかりまっせんばってん、事件からのち、夜になると隣家となりうちの中をば、火の玉が転めき廻わるチウお話で……」
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここで金兵衛の妾の話が出たので、直ぐに飛び付くように金兵衛の素行調べに移った訳だが、その妾というのは検番を調べてまわると直ぐに判然わかった。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そんな光景を見るともなく見まわしているうちに福太郎は、ヤット自分が仕出かした事が判然わかったように思った。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしてドア把手ハンドルに手をかけると三人が三人とも恐しそうに中腰になりかけたが、直ぐに又腰をおろした。妙な奴だと思ったが間もなくそのおびえている理由が判然わかった。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
現場げんじょうを見なければ判然わからないが、その秘密の現金を狙った奴が、わざと老爺じじいに上等の下駄をあつらえて
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汽笛ふえなんか鳴らしたから不可いけなかったんです。……かしいだ原因はまだ判然わかりませんが、船底の銅版あかと、木板いたの境い目二尺に五尺ばかりグザグザに遣られただけなんです。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ストーン氏はこの言葉を聞くとやっと仔細わけ判然わかったらしく点頭うなずいた。けれども、それと同時にいよいよこの女に興味を持ち初めたらしく身体からだをすこし乗り出して来た。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「毎日毎日、同じ掃溜を覗いておりますると大抵あらかたその家の身代の成行きが判然わかって参りまする」
こうした俺たちの会話は、どこかられたか判然わからないがたちまち船の中へパッと拡がった。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そげな調子で、いつから喰い初めたか判然わかりませんが、ふくでは随分、無茶をやりました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
恥かしいのか、怖ろしいのか、又は悲しいのか、自分でも判然わからない感情のために、全身をチクチクと刺されるような気がして、耳から首筋のあたりが又もカッカと火熱ほてって来た。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
顔のわからない夕方に出会った鳥打帽子のインバネス同志が右から左に、無言だんまり現金げんナマと引き換える……だから揚げられても相手の顔は判然わからん判然らんで突張り通したものですが
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
呼吸をしているのか、どうかすら判然わからない位凝然じっと静まり返っていた。初枝も天鵞絨びろうどの夜具のえりをソット引上げて、水々しい高島田のたぼを気にしいしい白い額と、青い眉を蔽うた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ですから紳士の足跡は泥で判然わかっても、女の足跡は残っていないのが当然なのです。支配人とボーイのは新しいからよくわかったのでしょう。……とにかくこの場は私に委せて頂きたい
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日までその正体が判然わかっておりませぬのに、して今から二十年も昔にさかのぼった……貴方がお生れになるか、ならない頃に、学術研究の論文として斯様な標題が選まれたのですからね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
方角も何も判然わからなくなってしまっても、まだザワザワと追いかけて来る音がする……と思ううちに思いもかけぬ横あいから、銃身を振りかざした裸体はだか女が、ハヤテのように飛び出して来る。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
早い話が昨日きのうだってこの老爺おやじは、タッタ一眼、顔を見合わせただけで、どこの馬の骨だか、牛の糞だか判然わからない……しかも悪タレ記者である事を名乗り上げている吾輩を見事手玉に取った上に
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寝間着パジャマを着た貴婦人に化けて寝台車に這入って、団長の化粧品箱の中から盗み出して、便所でレターペーパーを十枚程使って透き写しをしたのですから、とても判然わかにくいでしょうと思うんです。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
平生ふだんから私の事をドウ考えているか判然わかりませんでしたが、イヨイヨ押詰まった師走しわすの二十日頃にこの男の処へ身の上相談に行きますと、相変らずすすけ返ったつらで古道具の中に座っておりましたが
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今云う通り経歴すじみちがヤヤコシイからサッパリ判然わかっていないんだが、とにかく一当り当って焦点フオカスを合わせてくれ、トランクの中味もまだ突止めていないが、近いうちに日支関係が緊張するのを見越して
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから奥の深い事情が一つも判然わからんけに困っとる。