光線ひかり)” の例文
夕日は障子の破れ目から、英文典の上に細い黄ろい光線ひかりを投げてゐる。下女はランプに油をいで、部屋々々へ持ち廻つてゐる。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
不思議なほど濃紫こむらさき晴上はれあがった大和の空、晩春四月の薄紅うすべにの華やかな絵のような太陽は、さながら陽気にふるえる様に暖かく黄味きみ光線ひかり注落そそぎおとす。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
そのくるま手長蜘蛛てながぐもすね天蓋てんがい蝗蟲いなごはねむながい姫蜘蛛ひめぐもいと頸輪くびわみづのやうなつき光線ひかりむち蟋蟀こほろぎほねその革紐かはひもまめ薄膜うすかは
と、女が内懐うちぶところを押えた刹那せつな、ぱっと頭上のふたがあいて、外部の冷気とともに黄色の光線ひかりの帯が、風のように流れ込んだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
右手の小窓は、硝子ガラスおろした上に、左右から垂れかかる窓掛になかおおわれている。通う光線ひかりかすかにゆかの上に落つる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
KはBの体を、白い床の上にしずかに横たわらせた。赤いネクタイが、窓から洩るる鈍色にびいろ光線ひかりに黒ずんで見えた。背の高い黒い姿が夜の色より黒かった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
黄金のようなその光線ひかりを浴びると、見る見る三輪ともぱっと咲いた、なぜでしょう、といって、仇気あどけなく聞かれた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな奴は自分で自分の身体からだを弱くしようしようと掛かっている馬鹿者と見える。太陽の光線ひかりに当るのが左程さほどこわければ、来生らいせい土鼠もぐらもちにでも生れ変って来るがいい。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
千世子が咲いた花の様に笑うと部屋中にパッと光線ひかりが差しこんだ様に二人には思えた。
蛋白石 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
剣も槍もなが光線ひかり、なが息はほろぼしつくす火
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
色んな食器戸棚の上に光線ひかりひだを投げながら
太陽の光線ひかり
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
うすぐらい部屋に、一方の窓から流れこむ陽が坤竜丸の剣身に映えて、すすだらけの天井に明るい光線ひかりがうつろう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ことしょうなりといえども、こんな奴等も剛勇を誇る日本国民の一部かと思うと心細くなる。半死半生の病人や色の黒くなるのを困る婦女子ではあるまいし、太陽の光線ひかりがなんでそんなにこわいのだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
床の抜殻は、こんもり高く、い出した穴を障子に向けている。影になった方が、薄暗く夜着の模様をぼかす上に、投げ懸けた羽織の裏が、乏しき光線ひかりをきらきらとあつめる。裏はねずみ甲斐絹かいきである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外出だ! 光線ひかりが辛いくらゐなら
何刻なんどきほどたったか……フと寝返りをうった源三郎は、まぶたに、ほのかに光線ひかりを感じて、うす眼をあけました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
博士はく云いつつ、瓶を差し上げて太陽の光線ひかりに透かしてみたが
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
と栄三郎が眼をこすっているあいだに、女は、戸口をれる光線ひかりのなかへはいってきた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
煙は、光線ひかりの届いているところでは紫に見えるし、天井へ近づくと白く見える。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かすかによろこびの光線ひかりとも思われるのは、父があんなに待ったにもかかわらず、とうとう源三郎様がまに合わないで、死にゆく父の枕頭で、いやなお方とりの祝言しゅうげんのさかずきごとなど
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
暗さに眼がなれてみると、その三畳はみじめをきわめた乱雑さで、壁には、お爺さんとお美夜ちゃんの浴衣ゆかたが二、三枚だらりと掛かり、その下の壁の破れから、隣の家の光線ひかりが射しこんでいる始末。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)