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來懸
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きかゝ
此處へ
筒袖の
片手ゆつたりと
懷に、
左手に
山牛蒡を
提げて、
頬被したる六十ばかりの
親仁、ぶらりと
來懸るに
路を
問ふことよろしくあり。
ず
出行たり元より足も達者にて一日に四十里づつ
歩行珍しき若者なれば程なく松の尾と
云宿迄來懸りしに最早
疾日は暮て
戌刻頃とも思ひしゆゑ夜道を
請取夫より呉服橋へ掛り四日市へと
來懸るに
當時は今と
違ひ晝も四日市
邊は
淋しく
人通り
稀なれば清三郎は
惡僕二人と共に此處に
待伏なし居たり又七は金を
忽ち其所へ
打倒し
滅た
擲りに
打据たり斯る所へ半四郎は
彼早足も一
層遽しく堤の彼方へ
來懸りて遙か向うを
旦那お
相乘參りませう、と
折よく
來懸つた
二人乘に
這ふやうにして
二人乘込み、
淺草まで
急いでくんな。
安い
料理屋で
縁起直しに
一杯飮む。
此處で
電燈がついて
夕飯を
認め、やゝ
人心地になる。