なら)” の例文
しかるに思いがけもなく抹茶趣味の左千夫からこの舶来の花を貰うて、再び昔のように小桜草とならべて置かれてあるのが満足であった。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
日本の稲作いなさく灌漑かんがい様式は、その発達の跡にかんがみて、明らかに四段階に分かれており、しかも現在なおこの四つの型がならび存している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ヴントは感覚の性質を次元にならべているが(Wundt, Grundriss der Psychologie, §5)
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
佐久間將監さくましやうげんの一間くらゐある巨大な五輪塔までずらりとならんでゐて、白い石苔をかぶつたまま、美しさのために夜啼きをしてゐるやうであつた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
せっかくの思に、そで振り交わして、長閑のどかあゆみを、春のよいならんで移す当人は、依然として近寄れない。小夜子は何と返事をしていいか躊躇ためらった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今年余寒の頃、雪の中を、里見、志賀の両氏が旅して、新潟の鍋茶屋なべぢゃやなどとならび称せらるる、この土地、第一流の割烹かっぽうで一酌し、場所をかえて、美人に接した。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このブシュメン人は濠州土人火地人フェージャン等とならびに最劣等民とべっせらるるに、かくのごとき優等の創製を出した上に、パッフ・アッダーを殺すごとその毒をまば
邑落生活に於ける原始信仰は、神学が組織せられ、倫理化せられ、神殿を固定する様になつても、其とならんで、多少の俤は残らない地方はない程根強いものであつた。
「世運与時倶一新。野人随分祝王庭。忠君愛国多多意。併向東方拝歳星。」〔世運時トともニ一新ス/野人随分ニ王庭ヲ祝ス/忠君愛国多多ノ意/ならビテ東方ニ向ヒ歳星ヲ拝ス〕といっている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
従順を装う彼の心の底から「今度はおとなしく何処までも引込ひっこんでいるぞ」と固き決意の閃きを感じて、これはしまったと思った。両雄ならび立たず、私は流を見詰めたまま暫く憮然としていた。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もし資本と収入との区別を看過し、あるいはことに、社会的富のうちに有形の収入とならんで無形の資本用役が存在することを認めないとすれば、科学的な価格決定理論を建設することは出来ない。
さきにわが逍遙子とハルトマンとの兩家の説をならべ擧げしときは、われ逍遙子が沒理想といひし語を語のまゝに解して無理想の義となし、逍遙子を以て造化無理想、詩文無理想と説くものとなして
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
飲食店などのならんでいる通りをあるくごとに、それらを包む夜のそらをながめながら、そこの公園にうとうとと一と眠りをするか、でなければ
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
聴手ききてには、自分より前に兄夫婦が横向になって、行儀よくならんですわっていたので、自分は鹿爪しかつめらしくあによめの次に席を取った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その門前なる二ちゅうのガス燈の昨夜よりも少しく暗きこと、往来のまん中に脱ぎ捨てたる草鞋わらじの片足の、霜にきて堅くなりたること、路傍みちばたにすくすくと立ちならべる枯れ柳の
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸袋を五尺離れて、袖垣そでがきのはずれに幣辛夷してこぶしの花が怪しい色をならべて立っている。木立にかしてよく見ると、折々は二筋、三筋雨の糸が途切れ途切れにうつる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
拍子木ともいうが恰も拍子木二本をならべ食いちがい三分の二程度に置いた見取りでゆけばいいのである。これらの飛石のまわりに苔が生えて居れば、何も下草は植えなくともよいものである。
庭をつくる人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
思う人とならんで姿見に向った時、大丈夫写るは君と我のみと、神けて疑わぬを、見れば間違った。男はそのままの男に、寄り添うは見た事もない他人である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻さっきからこの両人は少年に似合わず、いやに高慢ちきな、いた風の事ばかりならべていたので、始終それを聞かされた主人は、全くこの点に立腹したものと見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とにかく引っ込んではおりませんからな。ただ二個のあなならんでいる状体と混同なすっては、誤解を生ずるに至るかも計られませんから、あらかじめ御注意をしておきます。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長さ一尺五寸幅一尺ほどな青表紙の手帳を約十冊ばかりならべて、先生はまがなすきがな、紙片かみぎれに書いた文句をこの青表紙の中へ書き込んでは、吝坊けちんぼうが穴のいたぜにためるように
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この垣の外は五六間の空地あきちであって、その尽くるところにひのき蓊然こんもりと五六本ならんでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どこかで鳴くこおろぎさえ、ならんでいる人の耳に肌寒はださむ象徴シンボルのごとく響いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)