任侠にんきょう)” の例文
ゆえにわがはいは外部に表れた男伊達だての行為よりも、むしろこの行為を生み出した任侠にんきょうの心持がしいのである。すなわち
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
任侠にんきょう自尊の念につよい栄三郎の発議によって、両人雲竜二剣を交換して雲は左膳へ、竜は栄三郎へと、おのおのその盗まれたところへ戻ったが。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父が持って生れた任侠にんきょうの性質は、頼まるゝごとに連帯の判もした。手形の裏書もした、取れる見込のない金も貸した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ですから、時に、暴を働き、治をみだし、徒党となっては群盗と変じ、散じては良民をかすめ、野伏のぶせり野武士などの名をもって呼ばれていますが、その本質は豪放ごうほう任侠にんきょうです。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えらいな! その清浄しょうじょうはだえをもって、紋綸子もんりんずの、長襦袢ながじゅばんで、高髷たかまげという、その艶麗あでやかな姿をもって、行燈あんどうにかえに来たやといの女に目まじろがない、その任侠にんきょうな気をもって
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もともとあの先輩に岡見を近づけたのも、任侠にんきょうを重んずる江戸ッ子の熱い血からであったろうが。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の郷里は正確にいうと愛知県幡豆はず郡横須賀村であるが通称「吉良郷」と呼ばれ、後年この土地に任侠にんきょうの気風が汪然おうぜんとしてぎりたったのも、彼等が尊敬あたわざる領主
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
献身と善意とまたこんどは任侠にんきょうな目的のためにめぐらされる古い田舎者いなかものの多少の知恵とのほか、何らの梯子はしごも持たずに、修道院の難関と聖ベネディクトの規則の荒い懸崖けんがいとを
人々はやかましく異議をもち出した。クリストフは言った、彼らの任侠にんきょうは偽善であって、婦人を最も尊敬しているらしい口をきく者こそ、最も婦人を尊敬しないのが常であると。
任侠にんきょうに富む男のような性質とに、日頃から好意以上のものを寄せていたのではあった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これが泉鏡花いずみきょうかの小説だと、任侠にんきょうよろこぶべき芸者か何かに、退治たいじられる奴だがと思っていた。しかしまた現代の日本橋は、とうてい鏡花の小説のように、動きっこはないとも思っていた。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が警察に連れて行かれても、そんなに取乱すような事は無かった。れいの思想を、任侠にんきょう的なものと解して愉快がっていた日さえあった。同朋町、和泉町、柏木、私は二十四歳になっていた。
単に男というときは、ただちに男らしいとかあるいは剛毅ごうきとか、あるいは大胆不敵だいたんふてき、あるいは果断かだん勇猛ゆうもう、あるいは任侠にんきょうというような一種の印象いんしょう惹起じゃっきす。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
うるわしいものにたいする純なる愛情が、それら任侠にんきょう公平なフランス人の魂に満ちていた。
彼が彼女の父の最期に同情を寄せ、一閑斎の武士にあるまじき卑劣な手段に義憤を感じて、鼻のかけらを大切に保存した上わざ/\届けてくれたと云う、その任侠にんきょうと好意は受け取れる。
もっともひとと違い、神月は、おのれが既往の経歴に徴して、花街にあるものの、かえって、実があって、深切で、情を解して、殊に一種任侠にんきょうの気を帯びていることを知ってはいたが、さすがに清い
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すなわち前に述べた勇猛ゆうもうとか任侠にんきょうとかという勇ましいところに重きをおいてこの句を用いたのではあるまいか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大慈大悲は仏菩薩ぶつぼさつにこそおわすれ、この年老いた気の弱りに、毎度御意見は申すなれども、姫神、任侠にんきょうの御気風ましまし、ともあれ、先んじて、お袖にすがったものの願い事を、お聞届けの模様がある。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)