一枚ひとつ)” の例文
時鳥ほとゝぎす矢信やぶみ、さゝがに緋縅ひをどしこそ、くれなゐいろにはづれ、たゞ暗夜やみわびしきに、烈日れつじつたちまごとく、まどはなふすまひらけるゆふべ紫陽花あぢさゐはな花片はなびら一枚ひとつづゝ、くもほしうつをりよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は今夜中に此れ一枚ひとつを上げねば成らぬ、角の質屋の旦那どのが御年始着だからとて針を取れば、吉はふゝんと言つて彼の兀頭はげあたまには惜しい物だ、御初穗おはつうれでも着て遣らうかと言へば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
折からの雨に涼しく見える、柳の腰を、十三の糸で結んだかと黒繻子くろじゅすの丸帯に金泥でするすると引いた琴のいと、添えた模様の琴柱ことじ一枚ひとつが、ふっくりと乳房を包んだ胸をおさえて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かちんくにはらないよ、臺所だいどころ火消壺ひけしつぼからずみつてておまへ勝手かつていておべ、わたし今夜中こんやぢゆう一枚ひとつげねばならぬ、かど質屋しちや旦那だんなどのが御年始着ごねんしぎだからとてはりれば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また少々慾張よくばって、米俵だの、丁字ちょうじだの、そうした形の落雁らくがんを出す。一枚ひとつずつ、女の名が書いてある。場所として最も近い東のくるわのおもだった芸妓げいしゃ連が引札ひきふだがわりに寄進につくのだそうで。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何、こそこそと、鼠あるきに、行燈形あんどんなりちいさ切籠燈きりこの、就中なかんずく、安価なのを一枚ひとつ細腕で引いて、梯子段はしごだんの片暗がりを忍ぶように、このいしだんを隅の方からあがって来た。胸も、息も、どきどきしながら。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)