みい)” の例文
「笑いごとじゃないよ、お前さんは、おっかない骸骨と、何をしようと云うんだね、お前さんは、邪鬼じゃきみいられてるのだ」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母の胎内にいた時のことを忘れたように、自分が僧侶の身であることを忘れて、まったく悪魔にみいられるほどの恍惚たる心持ちになったのでした。
この上に学問させたら、彼はいよいよ才学に誇って、果ては天魔てんまみいられて何事を仕いだそうも知れまい。学問はやめいと言うてくれ。しかと頼んだぞ
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
萩原さんが幽霊にみいられ、骨と一緒に死んでいたとの評判もあり、又首に掛けた大事の守りが掏代すりかわっていたと云うが、其の鑑定はどうも分らなかった
あそすごしてつかすてしとは合點がてんゆかねど其方が打叩うちたゝかれても一言の言譯いひわけさへもせざりしゆゑ如何成いかなる天魔てんまみいりしかと今が今迄思ひ居たるに全く若旦那の引負を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
K君はここを話すとき、その瞳はじっと私の瞳にみいり非常に緊張した様子でした。そしてそこで何かを思いついたように、微笑でもってその緊張をゆるめました。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「アアついに、自然にみいられた」と、市長は感じたが、その時はもう彼は、小川の川底に沈んでいた。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
「オイ、紫錦さん、お芽出度めでとう」源太夫は皮肉に冷かした。「エヘ、お前みいられたぜ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうして隆夫が、そんな軟派青年なんぱせいねんになってしまったのか、もちろんわたくしにも監督上ゆだんがあったわけでございましょうけれど、まさしく悪魔にみいられたのにちがいありません。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしそうなれば不足というは薬にしたくもないはずなるに、汝は天魔にみいられてそれをまだまだ不足じゃとおもわるるのか、ああ情ない、妾が云わずと知れている汝自身の身のほどを
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
弦月丸げんげつまる出港しゆつかうのみぎりに檣燈しやうとう微塵みじんくだけたのをて『南無阿彌陀佛なむあみだぶつこのふねにはみいつてるぜ。』とつぶやいた英國エイこく古風こふう紳士しんし甲板かんぱんから自分じぶん船室へやまんとて昇降口しようかうぐちから眞逆まつさかさま滑落すべりおちてこし
われは戰慄す、みいられたる人の如くに恐る。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
高武蔵守師直という無道人にみいられた、塩冶の奥方という貞淑の婦人は、丹波路の名も知れない小さい村の百姓家で、その若い命を焼かれてしまうのである。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「私は邪鬼にみいられて、殺されようとしているところでございます、どうかお助けを願います」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なにをいうても今は悪魔にみいられているので、いかようの御沙汰もあろうかと、それがしもないない懸念しておったが、今になんの御沙汰もなくば、存外穏便に済もうも知れぬ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相手は眼を薄くとじたままで、やはり否とも応ともはっきりとした返事をあたえないので、忠通はいよいよれ出して、彼が天魔にみいられているという現在の証拠を相手の前に叩き付けようとした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
励むものもあるまい。父上は天魔にみいられたのじゃ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)