餉台ちゃぶだい)” の例文
そして掃除がすむと神棚へ切り火をあげて、お庄と一緒に餉台ちゃぶだいに向いながら、これまでに自分の苦労して来た話などをして聴かした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夕飯は、茶の間の涼しい広縁ひろえんで、大勢と一緒だった。漆塗うるしぬり餉台ちゃぶだいが馬鹿に広くて、鏡のように光っているのが、先ず次郎の眼についた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
階下へ降りてみると、門を開放った往来から見通しのその一間で、岩畳がんじょうにできた大きな餉台ちゃぶだいのような物を囲んで、三四人飯を食っていた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
まるきり颱風たいふうが一過したに外ならなかった。散乱している餉台ちゃぶだいの上を眺め、彦太郎はしばらく茫然ぼうぜんとして、なんのことやらわからなかった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
餉台ちゃぶだいは奥の間へ持って行かれたし、母が先生のそばへつききりなので彼は台所の畳の上で独人ひとりあてがわれたやっこい方の御飯をよそって食べ始めた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
やっぱり柳沢の方に向ってそういいながら餉台ちゃぶだいはさんで柳沢と向い合って座った。そしてその横手に黙って坐っている私の方をチラリと振り向きながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
女は餉台ちゃぶだいの上に飲みかけの茶をこぼし、その水を人さし指の先につけてあやしく Virginis と書いた。
餉台ちゃぶだいの上に両肱りょうひじを突いた叔父が酔後すいごあくびを続けざまに二つした。叔母が下女を呼んで残物ざんぶつを勝手へ運ばした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
簡単な私たちらしい餉台ちゃぶだい。そこのこっちに坐って御飯たべていらっしゃるの。こっちに坐って見ているの。
……釣舟にしておきましょう、その舟のね、表二階の方へ餉台ちゃぶだいを繋いで、大勢で飲酒のみながら遊んでいたんですが、景色は何とも言えないけれど、暑いでしょう。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨夜おそく仕事から帰ってきて、僕が茶の間の餉台ちゃぶだいの前へ胡座あぐらをかいていると、女房が片口を持って玄関の方へ出て行った。すると、ややあって、ゴクという音がするのだ。
濁酒を恋う (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
左手は疊を敷いた室で、薄汚れのした絨緞の上に餉台ちゃぶだいが一つ置いてあった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おい、そっちに餉台ちゃぶだいをだしな」
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
晩飯には、青豆などの煮たのが、丼に盛られて餉台ちゃぶだいのうえに置かれ、几帳面きちょうめんに掃除されたランプのも、不断より明るいように思われた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二人のいる四畳半には、小さな餉台ちゃぶだいが一つ置いてあるきり、仲居も、簡単な酒肴を運ぶと、気をきかせて、後はよりつかない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と、いいながら、私は、久しぶりで口に馴れたお前の手でけた茄子なす生瓜きゅうりの新漬で朝涼あさすずの風に吹かれつつ以前のとおりに餉台ちゃぶだいに向い合って箸を取った。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
沈んだような、また安堵もした顔つきで、お茂登は広治のために布巾をかけておいた餉台ちゃぶだいの横に坐った。
その年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
女はこういって、琥珀こはく群青石ぐんじょうせきの指輪を一つずつはめた両手を餉台ちゃぶだいの上に並べて見せた。
彼は八畳の座敷の真中に小さな餉台ちゃぶだいを据えてその上で朝から夕方までノートを書いた。丁度極暑の頃だったので、身体からだの強くない彼は、よく仰向あおむけになってばたりと畳の上に倒れた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庄吉は一人ひとりいちらされた餉台ちゃぶだいに向った。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「ここの家では何ができるんだね。」と、笹村は餉台ちゃぶだいの上におかれた板を取りあげながら、身装みなりのこざっぱりした二十四、五の女中にたずねた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
部屋は四畳半のこぢんまりした部屋で、床の間もあり、餉台ちゃぶだいの上には既に酒肴の支度が整えられてあった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「おおきにお待ちどおさん」と、いいつつ餉台ちゃぶだいのうえに取って並べられる料理の数々。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
餉台ちゃぶだいで飯をくって育つのが安心也。
餉台ちゃぶだいにおかれたランプの灯影ひかげに、薄い下唇したくちびるんで、考え深い目を見据みすえている女の、輪廓りんかくの正しい顔が蒼白く見られた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は大きな餉台ちゃぶだいにほかの売女おんなどもと一緒に並んで御飯めしを食べたりなどしていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そしてそれが出て行くとそこらを片着け多勢の手で夕飯の餉台ちゃぶだいとともにおはち皿小鉢さらこばちがこてこて並べられ、べちゃくちゃさえずりながら食事が始まった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「皆さんも、今のうち何か食べておおきなすって……。」母親はそこらを片寄せて、餉台ちゃぶだいの上へ食べ物を持ち運んだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
晩飯の餉台ちゃぶだいの側で、静子を揶揄からかいながら、賑やかな笑い声を立てていたが、気の引けるお今は長く居昵いなじんだ、そこへ顔を出すさえきまりが悪そうであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お増は髪を丸髷まるまげなどに結って、台所で酒の支度をした。二人で広小路で買って来た餉台ちゃぶだいのうえには、男の好きなからすみや、鯛煎餅たいせんべいあぶったのなどがならべられた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鶴二も正雄も、もう朝飯の支度の出来た餉台ちゃぶだいの側に新聞を拡げて、叔母の起きて出るのを待っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある晩方銀子は婦人公論を、ひざに載せたまま、餉台ちゃぶだいに突っ伏して、ぐっすり眠っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島は何もない餉台ちゃぶだいの前に坐っている父親の傍へ来て、やっぱり顔を顰めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これまでに味わったことのない新漬しんづけや、かなり複雑な味の煮物などがいつも餉台ちゃぶだいのうえに絶えなかった。長いあいだ情味にかわいた生活を続けて来た笹村には、それがその日その日の色彩いろどりでもあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)