いん)” の例文
……浅妻の嘶きが、いつもと、違うように感じたのは、俺が近頃、そんな事に興味をもって、五いんを聞きわけているせいかも知れない
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いんを踏んで話をする人が世の中にありますかね? またたとい政府おかみの言いつけであろうと、韻を踏んで話をすることにでもなったら
それが全く文学熱から来たので、こちと読むと遠近と云う成語せいごになる、のみならずその姓名がいんを踏んでいると云うのが得意なんです。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一 鴎外先生若き頃バイロンの詩を訳せらるるに何の苦もなく漢字を以ていんを押し平仄ひょうそくまで合せられたり。一芸にひいづるものは必ず百芸に通ず。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
春秋の読経どきょうの会以外にもいろいろと宗教に関した会を開いたり、現代にいれられないでいる博士はかせや学者を集めて詩を作ったり、いんふたぎをしたりして
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
併し、この言葉は、お婆さんも遠い昔の記憶の上に、現実とかけはなれた不思議ないんで聞き返すことが出来た。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
あの子供の歌を聞いていると、でたらめがいんを踏んで、散文が直ちに詩になって響くのが妙です。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのとき、じっと甲斐のようすを眺めていた雅楽頭が、よくとおるいんの深い声で呼びかけた。
洪武十三年の秋、孝孺が帰省するに及び、潜渓がこれを送る五十四いんの長詩あり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は四脚しきゃく短長格ヤンブを思いっきり声を引き引きがなり立てて、いんが入れかわり立ちかわり、まるで小鈴こすずのようなうつろで騒々そうぞうしい音を立てたけれど、わたしはじっとジナイーダの顔を見たまま
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
処々にいんんであったり、熟字の使い方や何かが日本人離れをしているところなぞを見ると、やっぱりその名付親の勃海使が芬夫人のものがたりに感激して、船中の徒然つれづれに文案を作ってやったのを
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
然るに不思議なるは、王制維新以来、五十いんということをとなえだして、学校の子供に入学のはじめより、まずこの五十韻を教えて、いろはを後にするものあり。元来五十韻は学問(サイヤンス)なり。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして、唇からは、夢幻的なうっとりとしたようないんが繰り出された。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いん平仄ひょうそくもない長い詩であったが、その中に、何ぞうれえん席序下算せきじょかさん便べんと云う句が出て来たので、誰にも分らなくなった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この閨秀詩人は字を合わせいんをさぐることに、多くの苦心をせず、嚢中のうちゅうのものを取り出すように、無雑作むぞうさにこれだけの詩を書いてしまったことに舌を捲かずにはいられません。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やさしくいんのふかいもの云い、しずかな微笑……なにもかもはっきりと彼の心のなかに生きているのだ、けてゆく夜のしじまに、彼はあでやかな妻のおもかげと相対するような気持で
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其の一大文豪たる、世もとより定評あり、動かす可からざるなり。詩はけだし其の心を用いるところにあらずと雖も、亦おのずからる可し。其の王仲縉感懐おうちゅうしんかんかいいんする詩の末に句あり、曰く
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
獣声にちかい、五いんはずれたわめきである。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いんもなく旋律もなし。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
詩だって君、詩人の詩というわけにはいかないが、ちゃあんと一東いっとういんを踏んでいるし、行の字を転換すれば、平仄ひょうそくもほぼ合っているそうだ、無茶なことはしておらんそうだ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よくひびくいんの深い声であった。