面色めんしょく)” の例文
気丈な母ですから、懐剣を抜いてあふおちる血をぬぐって、ホッ/\とつく息も絶え/″\になり、面色めんしょく土気色に変じ、息を絶つばかり
兄の面色めんしょくあおいのに反して、自分は我知らず、両方の頬のほてるのを強く感じた。その上自分は何と返事をして好いか分らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あおざめた面色めんしょくに、眼は血ばしり、頬には、涙の糸とほつれ毛を引き、その毛の先をきゅっと口に噛みしめて、物すごいばかりの形相。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
票数ひょうすうがよみあげられ、大統領は富士男と決定した、ドノバンは絶望ぜつぼうのあまり面色めんしょくを土のごとくになしてくちびるをかんでいた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
みな、生きてかえるいくさとは思わないので、張りつめた面色めんしょくである。決死のひとみ、ものいわぬ口を、かたくむすんで、粛々しゅくしゅくをそろえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの意地の悪そうな、にがりきった面色めんしょくが、泣くとも笑うともつかない気色けしきを浮かべて、眼ばかりぎょろぎょろせわしそうに、働かせてるのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人々の面色めんしょくが、俄かに土色に変ったようであった。これは天井に取付けてあった水銀灯が点灯したためであったが、多くの人は、急にはそれに気がつかなかった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
番頭は、この時、面色めんしょくが土のようになり、よく戻っておいでになりましたともいいませんでした。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
驚きしもうべなりけり、蒼然そうぜんとして死人に等しきわが面色めんしょく、帽をばいつのまにか失い、髪はおどろと乱れて、幾度か道にてつまずき倒れしことなれば、衣はどろまじりの雪によごれ
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
蕎麦に田螺たにし、心太に生玉子、蟹に胡瓜も食べ合せ悪しきもの、家鴨あひるの玉子ととろろを併せ食えば面色めんしょくたちどころに変じて死すと云う。蛸と黒鯛は血を荒すが故に女子の禁物とするものなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今にも我が敵に噛附かみつかんずる程の怒れる面色めんしょくを存すべき筈ならずや。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と一生懸命面色めんしょく土気色に変わり、眼色めいろ血走りました。飯島も面色土気色で目が血走りているから、あいこでせえでございます。
これはまた、忍剣の鉄杖より、龍太郎のはやわざより、一しゅべつな気稟きひんというもの、下郎大九郎は、すでに面色めんしょくもなく、ふるえあがって両手をついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
モロは、面色めんしょく土のごとくになり、発条仕掛バネじかけの人形のように、突立ちあがり、椅子をたおした。彼の左手が、ぶるぶる震えるなわのようなものを、右手からひきちぎった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その面色めんしょくの穏かならぬことにはいよいよ驚かないわけにはゆかないのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
富穀ふこく面色めんしょく土の如くになって、一語を発することも得なかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
家根屋やねやの清次が助右衞門の死骸を出せと云うに驚き内心にはうして清次がの助右衞門を殺した事を知っているかと思い、身をふるわせて面色めんしょく変り、うしろの方へ退さがりながら小声になって。
「なんじゃ兵庫! おお、益田藤兵衛! そちの面色めんしょくもただではないぞ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山三郎もく有らんと存じてかねて用意したる種が島の筒を同じく取出し、「どっこい此方こっちにも」と鉄砲を附けました、すると粥河は面色めんしょくを変えまして、これから果し合いをまするお話
うながされたが、紋太夫は、さすがに面色めんしょくを失ってしまった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云われた時は流石さすがの春見も面色めんしょく土の如くになって、一言半句いちごんはんくも有りません。
福原數馬はにわか面色めんしょくを変え、かたちを正して声を張上げ。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)