野州やしゅう)” の例文
また世の笑いぐさだ。かつは野州やしゅう足利ノ庄から志を立ててここまで来ながら、きょうまでの苦心功業もすべて水のあわでしかあるまいが
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸君の中には近頃一読せられた人もあろうと思うが、清水文弥翁の『郷土史話』には、野州やしゅう那須なすの農村における実験がしるしてある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日は四千人からの江戸屋敷の脱走者が武器食糧を携えて両総方面にも野州やしゅう方面にも集合しつつあるとか、そんな飛報が伝わって来るたびに
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
野州やしゅう塩原の秋は、塩原じゅうの人の顔が赤くなると云われているが、そう云うひと色に染まる紅葉も美観ではあるけれども、ここのようなのも悪くはない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
是を便り戸田侯へ奉公ずみ致し、新地五十石にて馬𢌞り組に召抱えられましたが、翌寛延二己巳つちのとみの四月、御主人は野州やしゅう宇都宮より肥前の島原へ国替仰付けられ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸参覲の折、野州やしゅう阿久津あくつの鬼怒川が出水して川止めになり、宇都宮へ戻って、四日あまり滞在なさったが、旅費を使い果され、川は開いたが、渡りもならない。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
野州やしゅう〔栃木県〕日光の赤沼あかぬまの原では、そこに多いノハナショウブをアカヌマアヤメといっている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
たそがれかけた夕空高くさえずってこのあたり野州やしゅうの山路に毎年訪れる、一名霜鳥との称のある渡り鳥のツグミの群が、啼いて群れて通っていったからとて不思議はないのです。
さればとて故郷の平蕪へいぶの村落に病躯びょうく持帰もちかえるのもいとわしかったと見えて、野州やしゅう上州じょうしゅうの山地や温泉地に一日二日あるいは三日五日と、それこそ白雲はくうんの風に漂い、秋葉しゅうようの空にひるがえるが如くに
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伊予のの蕪及び絹皮ザボン、大阪のおこし、京都の八橋煎餅やつはしせんべい上州じょうしゅう干饂飩ほしうどん野州やしゅうねぎ三河みかわの魚煎餅、石見いわみあゆの卵、大阪の奈良漬、駿州すんしゅう蜜柑みかん、仙台のたいの粕漬、伊予の鯛の粕漬
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
大谷石はその名が示す如く、野州やしゅう河内かわち郡城山村大谷から出る石の名である。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
次郎左衛門じろざえもん野州やしゅう佐野の宿しゅくを出る朝は一面に白い霜がりていた。彼に伴うものは彼自身のさびしい影と、忠実な下男げなん治六じろくだけであった。彼はそのほかに千両の金と村正むらまさの刀とを持っていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大越街道を羽生の町へはいろうとするあたりからは、日光の山々を盟主にした野州やしゅうの連山がことにはっきりと手にとるように見えるが、かれはいつもそこに来ると足をたたずめて立ちつくした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
東の方は上州太田の金山かなやまが名所でその近傍きんぼう野州やしゅう唐沢山からさわやま辺まで松茸が出るそうですが西は濃州のうしゅう三州江州辺から沢山参ります。それがんな売物屋の手へ入ると西京の松茸と名をつけてしまいます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
其の男は近江おうみから蚊帳を為入しいれて、それを上州じょうしゅうから野州やしゅう方面に売っていたが、某時あるとき沼田へ往ったところで、領主の土岐家ときけへ出入してる者があって、其の者から土岐家から出たと云う蚊帳を買って帰り
沼田の蚊帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
野州やしゅう南高岡村の鹿島神社などでは、神主若田家の先祖が、池速別皇子いけはやわけおうじという方であったといっております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丁度あの鳶頭が来た翌日あくるひでした、吉原なか彼女やつ駈落かけおちと出懸けやしたがね、一年足らず野州やしゅう足利あしかゞで潜んでいるうちにかゝあは梅毒がふき出し、それが原因もとで到頭お目出度めでたくなっちまったんで
野州やしゅうの那須の住人那須八郎宗重むねしげから早馬で都へ注進して来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
野州やしゅうの那須の温泉でも、もとは湯本から三町ばかり離れて、教伝きょうでん地獄というところがありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それよりも更に有名な一つの伝説は、野州やしゅうの日光山と上州の赤城山との神戦でありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ツギナンボ 野州やしゅう北部