はず)” の例文
川音と話声とまじるのでひどく聞きづらくはあるが、話のうちに自分の名が聞えたので、おのずと聞きはずすまいと思って耳を立てて聞くと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「危ねい! 往来の真ン中を彷徨うろうろしてやがって……」とせいせい息をはずませながら立止って怒鳴り付けたのは、目のこわい車夫であった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、心持息をはずませて、呆氣にとられてゐる四人の顏を急しく見廻した。そしてむつちりと肥つた手で靜かにその解職願を校長の卓から取り上げた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
後開榛名梅ヶ香おくれざきはるなのうめがか安中草三郎あんなかそうざ)」や「粟田口霑笛竹あわたぐちしめすふえたけ」や「塩原多助一代記しおばらたすけいちだいき」もまたはずすべからざる代表作品であるがこれらの検討もまた他日を期そう。
「もう解った。ふうむ、そうか。……それでやっと胸に落ちた。爺つぁん!」——と岩太郎は声をはずませた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
言葉數も少なく、杯も一向にはずまぬ。座の一方の洋燈には冷やかに風がゆらいで居る。此ごろでは少し飮めばすぐに醉ふやうになつてゐる父が、その夜は更に醉はない。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
失敬な事を云ふ奴だと思つたが、翁に会ひたいと云ふねがひはずんで居る心には腹も立たなかつた。晶子は東京の有島生馬いくま君から貰つて来た紹介状に皆の名刺を添へて下部ギヤルソンに渡した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
昨夜はずんだような心持で母親の言い出したことを考え出すとおかしいようでもあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今日まで如何なる難題にも、邪推にも、悪罵にも、あてこすりにも十二分に堪えていた温良な嫁も、むざむざ良人との愛をかれるこの不法と苛酷に対して、思わず自制のたがはずしてかッと逆上した。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
『けれどもねえ智惠子さん、うしたんだか些とも氣がはずまなかつてよ。騷いだのは富江さん許り……可厭いやあねあの人は!』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
こっちの四人、女連れだ、ことに浜路は疲労つかれている。呼吸がはずんで歩きなやむ。背後うしろ三間、追い逼まった敵!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
息がはずんで、足がすくんで、もうじッとして居られない。抱付くか、逃出すか、二つ一つだ。で、私はのちの方針をって、物をも言わず卒然いきなり雪江さんの部屋を逃出して了った……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その眼は妙に輝いて、聲まではずんでゐる。貴下あなたは東京の人だらう、と言ひながら頭の頂上てつぺんから爪先まで見上げ見下してゐる。何氣なく左樣だと答へると、何日にあちらを立つたと訊く。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「時」の血を火の如くはずませ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『けどもねえ智恵子様、怎うしたんだかちつとも気がはずまなかつてよ。騒いだのは富江さん許り……可厭いやあねアノ人は!』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
深手を負わせるという約束に背いて時のはずみとは云い乍ら、切り殺したように思われたからです。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小さな茶店に休んでゐると其処にも四五人がゐて、何か戦争の話がはずんでゐた。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
はずしてなるものか、というような気になって、必死になって武者震いを喰止めて、何喰わぬ顔をして、呼ばれる儘に雪江さんの部屋の前へ行くと、こごんでいた雪江さんが、其時勃然むっくりかおを挙げた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二人の話はもう以前の樣にはずまなくなつた。吉野が來てからの智惠子は、何處となく變つた點が見える。さればと言つて別に自分を厭ふ樣な樣子も見せぬ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いかに鍛えた体とはいえ、疲労せざるを得なかった。彼は今にも仆れそうになった。ハッハッハッハッと呼吸いきはずんだ。で彼は北側の廊下で、しばらく休むことにした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると次第に彼等同志だけで話がはずんで來て、後には御者もその仲間に入つた。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
智恵子の来なかつたのは、来なければいと願つた吉野を初め、信吾、静子、さては或る計画もくろみを抱いてゐた富江の各々おのおのに加留多に気をはずませなかつた。其夜は詰らなく過ぎた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
だんだん二人は疲労つかれてきた。足の運びも遅くなり、胸が苦しく呼吸がはずむ。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、ツイはずんで地方訛なまりを使つたので遽てゝ紅くなる。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
智惠子の來なかつたのは、來なければ可いと願つた吉野を初め、信吾、靜子、さては或る計畫を抱いてゐた富江の各々に、歌留多に氣をはずませなかつた。其夜は詰らなく過ぎた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうしたことか今日に限って一向におはずみなされませぬな。
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうやら少し呼吸いきはずむ。ちょっと体を休めるとしよう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「秋篠!」と若殿は嬉しさに、声をはずませて呼びかけた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「殿、拝借、望遠鏡を」近習の三弥、声をはずませる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時のはずみで松太郎も、刀を執らざるを得なかった。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)