途次みちみち)” の例文
途次みちみち小児科医の家の前を通る度に、学士は車を停めて、更に注射を加えて行こうかと考えて、到頭それも試みずに本郷へ着いた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼等かれら途次みちみちさわぐことをめないで到頭たうとう村落むら念佛寮ねんぶつれうひきとつた。其處そこにはこれ褞袍どてらはおつた彼等かれら伴侶なかま圍爐裏ゐろり麁朶そだべてあたゝまりながらつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何とかいい智慧ちえはないか知らぬと帰る途次みちみちも色々に頭脳あたまを悩ました末に、父にむかってこういう嘘をいた。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
Cさんは、そのお爺さんを、そのお爺さんのうちまで送って、自分でその日の牛乳を配達したんですって。それからずっと今日まで、毎日学校へ来る途次みちみち、お爺さんの配達のお手伝てつだいをなさるんですって。
大きな手 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
叔父叔母の顔を眺め、若い人達の噂を聞くにつけても、豊世は気が変って、途次みちみち考えて来たようなことは言出さなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
被害者ひがいしや駐在所ちうざいしよけつけるに、はたけとほくにはなれ/″\にらばつて百姓等ひやくしやうらことごとれをつた。被害者ひがいしや途次みちみち大聲おほごゑして呶鳴どなつてつたからである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
節子は途次みちみちいろいろなことを思いながらやって来たという風で、岸本にいて人通りも少い途を静かに歩いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
途次みちみち私達に向って、「この牧場は芝草ですから、牛の為に好いです」とか「今は木が低いから、夏はいきれていけません」とか、種々いろいろな事を言って聞かせた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「時に、本陣の御主人、拙者は途次みちみち仕置場しおきばのことを考えて来たが、この辺では竹は手に入るまいか。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
途次みちみち彼女は種々なことを考えて行った。どうかすると彼女は、自分の結婚の生涯を無意味に考えた。絶対の服従を女の生命とするお種のような、そういう考えは豊世には無かった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
途次みちみち技手は私を顧みて、ある小説の中に、榛名はるなの朝の飛雲の赤色なるを記したところが有ったと記憶するが、飛雲は低い処を行くのだから、赤くなるということは奈何いかがなどと話した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
途次みちみちきびしい検閲で旅の手帳を取上げられるくらいのことは覚悟しても、英吉利イギリスから北海を越え、日頃見たいと思う北欧羅巴の方を廻って、西比利亜シベリアを通って帰って行く汽車旅を択ぼうか。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
烏帽子山麓えぼしさんろくに寄った方から通って来る泉が、田中で汽車に乗るか、又は途次みちみち写生をしながら小諸まで歩くかして、一週に一二度ずつ塾へ顔を出す日は、まだそれでも高瀬を相手に話し込んで行く。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕が田圃側たんぼわきなぞにころがっていると、向の谷の方から三脚を持った人がニコニコして帰って来る——途次みちみち二人で画や風景の話なぞをして、それから僕がSさんの家へ寄ると、写生を出して見せてくれる
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)