辻堂つじどう)” の例文
御城の北一里にあるつるぎみね天頂てっぺんまで登って、其所の辻堂つじどう夜明よあかしをして、日の出を拝んで帰ってくる習慣であったそうだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駒飼こまかい宿しゅく辻堂つじどうで、ちょっとおびをしめなおしているあいだに、あなたがたおふたりが、足もとへおいたわたしの金入かねいれをお持ちになってかけだしたので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヴィエンヌ河の岸に沿うて高く立つサン・テチエンヌ寺への坂道の角には、十字を彫り刻んだ石の辻堂つじどうがある。香華こうげそなえた聖母マリアの像がその辻堂の中にまつってある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
翌日は吉野路よしのじを通って、五条橋本ごじょうはしもとなど云う処をてそのかごとりと云う山の辻堂つじどうで一泊し、十日になって紀州路きしゅうじから泉州せんしゅう牛滝うしたきと云う処へ越え、それから葛城山かつらぎざんへ往った。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
拠無よんどころなく夕方から徒歩で大坂おおさかまで出掛でかける途中、西にしみやあまさきあいだで非常に草臥くたびれ、辻堂つじどう椽側えんがわに腰をかけて休息していると、脇の細道の方から戛々かつかつと音をさせて何か来る者がある
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
ひるまは歩いてゆき、夜は辻堂つじどうの中や、家の軒端のきばや、わらづみのかげで眠つた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
さあ、此処ここからが目差めざ御山おやまというまでに、辻堂つじどう二晩ふたばん寝ました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辻堂つじどうの奴、とうとう死にましたよ」
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まだあの子供こどもがどこかにかくれているかもれないというので、盗人ぬすびとたちは、みみずのいている辻堂つじどうえんしたかきうえや、物置ものおきなかや、いいにおいのする蜜柑みかんのかげをさがしてみたのでした。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)