身仕度みじたく)” の例文
王子は身仕度みじたくをし、長い外套がいとうをつけまるい帽子をかぶり、短い剣をこしにさして、誰にも気づかれないように、そっと城をぬけ出しました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
髪粧かみよそおい、何かの身仕度みじたくを小まめにととのえていたものでしょう、あとは、草履のひもを結ぶばかりに、すっかり身ごしらえを済ましている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身仕度みじたくを整えた伝吉は長脇差ながわきざしを引き抜いたのち、がらりと地蔵堂の門障子かどしょうじをあけた。囲炉裡いろりの前には坊主が一人、楽々らくらくと足を投げ出していた。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三吉は二階から下りて来て、身仕度みじたくを始めた。お倉は未だ話し込んでいた。お雪は白足袋しろたびの洗濯したのを幾足か取出して見て
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
船長は、舵機室に上るために、急いで、身仕度みじたくもせずにドアーを開けようとした。然し、まだ開けないうちだった。いきなり、浅川が船長の右肩をつかんだ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
しばらくして彼は寝台に起き直り、ゆっくりした動作で身仕度みじたくませ長靴をつけた。粗末な小屋なので動く度に床がきしみ、腕が触れる毎に壁はばさばさと鳴った。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
別に身仕度みじたくの必要もない私は、旅行といっても至極簡単で、身柄一つで列車に乗込めばよかった。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丹後守は兵馬をつれて邸内の道場へ来ると、今まで話が槍術そうじゅつわたることをすら避けていたのに、ここで我から進んで身仕度みじたくをしてたすきをかけ、稽古槍を取り下ろしました。
天外てんぐわい萬里ばんり異邦ゐほうでは、初對面しよたいめんひとでも、おな山河やまかはうまれとけばなつかしきに、まして昔馴染むかしなじみ其人そのひとが、現在げんざいこのにありといてはたてたまらない、わたくしぐと身仕度みじたくとゝのへて旅亭やどやた。
此儘このまゝすぐにとそこ/\身仕度みじたくして庭口にはぐちでんとする途端とたんぢやうさま今日けふもおかけか何處どこへぞと勘藏かんざうがぎろ/\おそろしけれどおくしてなるまじとわざとつくる笑顏ゑがほあいらしく今日けふもとは勘藏かんざうひどいぞや今日けふはとはねばてにを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は恐怖と嫌悪けんおとに、わななく歯を噛みしめながら、そっと生暖なまあたたかい寝床をすべり脱けた。そうして素早く身仕度みじたくをすると、あの猿のような老婆も感づかないほど、こっそり洞穴の外へ忍んで出た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)