しゃが)” の例文
菜葉服の三好と又野が、テニス・コートの審判席の処にしゃがんでいた。二人の背後うしろにはまだ半枯れのコスモスが一パイに咲き乱れていた。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
杜は、またそこにしゃがんで、棟木の下に隠れている女の手首を改めた。なんだか下は硬そうであるが、とにかくその下を掘り始めた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……古本あさりに留守の様子は知ってるけれど、鉄壺眼かなつぼまなこが光っては、としゃがむわ、首を伸ばすわで、幸いあいてる腰窓からうかがって、大丈夫。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういう晩になると堀は、きっと庭さきへ出て、永い間しゃがんでいるかと思うと、両手を地に突いて、やはり野犬のような吠え声を出した。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
ひどくれ狎れしい、人好きのするようすである。彼はしゃがんで、まだ暴れている雀を拾いあげ、羽根を縫っていた吹矢を抜いた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ねえ熊城君、死体は他殺死体には類例のない妙な格好で、しゃがんだまま死んでるんだぜ。そればかりでなく、死体をめぐって謎だらけなんだ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
だが、そう遠くまで駈けなくても、すぐ後ろに草の根や石塊いしころの下から湧いている泉がある。城太郎はしゃがみ込んで、両手に水をすくおうとした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は友吉をうながしながら、妻恋稲荷いなりの前にしゃがみました。
……ふと心附いて、ひきのごとくしゃがんで、手もて取って引く、女の黒髪が一筋、糸底を巻いて、耳から額へほっそりと、頬にさえかかっている。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は五枚折りの大きな化粧鏡の前で、まず女王のかんむりを外した。それから腰を下ろすと下にしゃがんで長い靴と靴下とをぬぎ始めた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
弟もやはりそこにしゃがんでは遊んでいたのに、お俊は気もちの中にときおり愕然がくぜんとして何物かに衝かれたような気になって、きよ子の姿を見た。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かよは手燭を下に置き、そこへしゃがんで、わざと甘えたつくり声で云った。彼女が跼むと、なまめかしい香料の匂いが強くした。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は進退きわまったような気持ちで、帽子を持ったまま縁側にしゃがんだ。白昼ひるまでありながらソンナ気がチットモしない。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その前に、香華こうげが供えてなければ、野原の小さな起伏の一つとしか見えないが、前にも誰か、備前の小徳利に何か供えてあるし、右門も今、香華を持ってそこへ来てしゃがみこんだのである。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年は、ぽつねんとしゃがんで、右の手に刷り物をもって手持無沙汰に歳太郎の顔と群衆の顔をかわるがわる見くらべていた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
植木職人の風をした私は高林家の裏庭にジッとしゃがんで時刻が来るのを待った。雨らしいものがスッと頬をかすめた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いよいよ例のあやしい個所かしょの秘密が曝露ばくろするのだ。彼は階段のうしろへしゃがむとリノリュームをいきなりめくってその下から二本の細い電線をつまみ出した。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万三郎は、はね飛んだ石黒の直刀を捜し、それを持って来て、彼の側へしゃがみ、その肩へ手をやった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
糸七は、南瓜の葉をかぶらんばかり、驚破すわといえば躍越えて遁げるつもりの植木屋の竹垣について、すすきの根にかくれて、蝦蟇がまのようにしゃがんで、遁げた抜けがらの巣を——うかがえば——
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉はそこで話をきると、しゃがんで私をも前に座らせ青い名なし草を抜きながら、それを手でむしっては話しつづけました。
不思議な国の話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私は電話という声を聞くなり、受話器の影法師の蔭からそっと身を退いて、窓の下にしゃがみ込んでしまったから……。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕はしゃがむとそれに手をかけ横に引くと、年増女の腕にかきつけてあった文字どおりに、鉄格子がズルズルと十センチほど摺れて、あとにポッカリと穴が明いた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
壮太はわたされた香水を塗って、ほとんど地面にしゃがみながら待っていた。十分——二十分。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くたびれると、おい一服しようと土手の草の上にしゃがんで煙草たばこみ、ほとんど終日食っ附いて一日をくらしていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
恐れ気もなく死骸の傍にしゃがんで、燃え立つような湯もじの裾をまくってみたり、女の髪の元結いの結び目を覗きまわったり、有り合う木切れを拾い上げて、女の口をコジあけて
……すると岩の蔭になったところに、人がしゃがんで入れるほどの洞穴ほらあなのあるのを発見した。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の身躾みだしなみの一つであるポケット・ランプをパッと點けると、まずネオン横丁の入口に最も近いカフェ・オソメの前にしゃがんで戸口の前や、ステンド・グラスの入った窓枠まどわくなどを照し
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手も足もその目も、すべて小さな体躯が凝ったように動かないで、じっと酒樽の陰にしゃがんでいるのを見た。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
二人の中間にしゃがむか片膝を突くかしたまま、右と左に一気に兇行を遂げたものらしい。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
亡霊の消えたのは其処そこである、——博士はしゃがみこんで、根気よく二十分あまりも煖炉の周囲を撫廻なでまわしていたが、やがて指先が、煖炉棚マントルピースの一角に触ったと思うと、火床が音もなく滑って
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小山嬢は、実験台の下にしゃがむと、間もなく台の上に大きな靴を持出した。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なぜというに、かれは決して饒舌しゃべるようなことがなかったし、特に起きて働くということがなかった。かれは、ただ、暇さえあればしゃがんで唾を吐きながら居たのである。
天狗 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
右手にタイルの越中褌包みを抱え、右袖を顔に当ててしゃがみながら、白い首をコレ見よがしに差し伸べてキョロリキョロリとそこいらを見まわした。不思議な事に、チットモ怖くなかった。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おめえが勝手なまねをしても見逭みのがしてるんだ、今夜のことだってもしおれがそうしようと思えば、きさまに仕置をすることだってできるんだぞ、なあぶしゅうと云って、松田はそこへしゃがんだ。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこは、用水から余った瀬尻せじりが深く水底を穿ってどんよりと蒼蒼しい淵をつくっていた。鮎や石斑魚うぐいなどを釣る人が、そこの蛇籠じゃかごしゃがんで、黙って終日釣り暮すのを見受けることがあった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と私服の刑事らしい男が巡査を押し止めながら、昂作の前にしゃがみ込んだ。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そう気付いて、敦夫は素早く蘆の茂みへしゃがみこんだ。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
堂のところに、この小柄な坊さんはしゃがんで、いろいろな話をしてくれた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
台所で一知が茶漬を掻込かっこんでいるらしい物音に耳を澄ますと、直ぐにしゃがんで、片手で砥石を持上げてみた。砥石の下には頭をタタキ潰された蚯蚓みみずが一匹、半死半生に変色したまま静かに動いていた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
船長は喚きながら死体の側へしゃがんだ。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……この女はここでこんな風にしゃがんで、室の中の様子を覗った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しゃがみ込んでそういうと、辛しの湿布がきたが、布だったので
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)