貴所あなた)” の例文
女子の特質とも言うべき柔和な穏やかな何処どこまでもやさしいところを梅子さんは十二分にもっておられる。これには貴所あなたも御同感と信ずる。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
梅子はホヽ笑みぬ「親の権力も子の意思に関渉することの出来ないのは、貴所あなた、只今御説明なされたでは御座いませぬか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
百姓や何かにはわからないが、貴所あなたのとこの若旦那は大学校へ這入つてゐる位だから、いし善悪よしあしは屹度わかる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼の献言けんげん、そのはかり、至極妙と存じたゆえ、敵に洩るることをおそれて、却って、あのようにわざと叱ったわけでした。あとで貴所あなたからよくいたわってつかわされるように
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見て水主等かこらに此處は何所いづこおきなるやと尋けるに水主等はしかとは分らねど多分たぶん兵庫ひやうごおきなるべしと答けるにぞ杢右衞門もくゑもんは吉兵衞にむかひ番頭樣貴所あなたの御運のよきゆゑにたつた二日二夜で海路かいろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わしも初は進まなかったが考えてみると娘の為め細川の為め至極良縁だと思う、何卒どう貴所あなたその媒酌者なこうどになってくれまいかとの言葉。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「けれど、篠田さん、貴所あなたは今ま御自愛なさらねばならぬ御体で御座いませう」梅子の一語には満身のちからあふれて聞こえぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ところが、まあ、そう云わずと、せめて五百株でも、実はもう貴所あなたの名前にしてあるんだからと云うのさ、面倒だからいい加減に挨拶あいさつをして置いたら先生すぐ九州へ立って行った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ貴所あなたの顔など見たら、油へ火がつくに極っておる。——まあ当分は、不沙汰にかくれ、それよりも鞍馬のわっぱを一日もはやく剃髪ていはつさせておしまいなさい。髪を下ろしてしまうにかぎる
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都築外記つゞきげきは願の筋有ば其支配の役人より向々むき/\の役人へ願ひ出よと差戻さしもどせど三五郎は猶さし出し其御役人方御取上げ御座らぬによりよんどころなく貴所あなたさまへ御願ひ申上ますとてうごかねば籤九度山どやま目付めつけ中村主計かずへはイヤ外記げき殿それは取上るに及びますまい打捨うちすてて歸られよと云を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「だから縁といふは奇態なものです。貴所あなた最早もう御安心なさい、すつかり分明わかりました。」と我身のことの如く喜んで座に着いた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
有難う御座います、貴所あなたの温和の御精神をお聴致すにけ何と云ふ私の恐ろしい心で御座いませう、——私は篠田さん、ほんたうに懺悔ざんげ致しました
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
自分は決して浮きたる心でなく真面目まじめにこの少女を敬慕しておる、何卒どう貴所あなたも自分のため一臂いっぴの力を借して、老先生の方をうまく説いて貰いたい
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貴所あなたが気をつけんから落したのだ、待ておいで、今岩崎を呼ぶから」と言ったのは全然まるでこれまでの自分にないことで、児童は喫驚びっくりして自分の顔を見た。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「今日は日曜で銀行がだめですから貴所あなたうちに預かって下さいませんか。私の家は用心が悪う御座いますから」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だってね母上おっかさんのことだから又大きな声をして必定きっと怒鳴どなりになるから、近処きんじょへ聞えても外聞が悪いし、それにね、貴所あなたが思い切たことを被仰おっしゃると直ぐ私が恨まれますから。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貴所あなたはおきぬひたくつて?』
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)