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豆府屋
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とうふや
……
豆府屋の
通帳のあるのは、
恐らく
松本の
家ばかりだらうと
言つたものである。いまの
長もよく
退治る。
土間はしめつて、
鍛冶屋が
驟雨、
豆府屋が
煤拂をするやうな、
忙しく
暗く、
佗しいのも
少くない。
その
叔父は
十年ばかり
前、七十一で
故人になつたが、
尚ほその
以前……
米が
兩に
六升でさへ、
世の
中が
騷がしいと
言つた、
諸物價の
安い
時、
月末、
豆府屋の
拂が
七圓を
越した。
味噌の
小買をするは、
質をおくほど
恥辱だと
言ふ
風俗なりし
筈なり。
豆府を
切つて
半挺、
小半挺とて
賣る。
菎蒻は
豆府屋につきものと
知り
給ふべし。おなじ
荷の
中に
菎蒻キツトあり。
狐の
豆府屋、
狸の
酒屋、
獺の
鰯賣も、
薄日にその
中を
通つたのである。
まだ
我樂多文庫の
發刊に
成らない
以前と
思ふ……
大學へ
通はるゝのに、
飯田町の
下宿においでの
頃、
下宿の
女房さんが
豆府屋を、とうふ
屋さんと
呼び
込む——
小さな
下宿でよく
聞える——
聲がすると
水道が
出て、
電燈がついて、
豆府屋が
來るから、もう
氣が
強いぞ。