観世音かんぜおん)” の例文
旧字:觀世音
観世音かんぜおん四萬三千日、草市、盂蘭盆会うらぼんえ瞬間またたくまに過ぎ土用の丑の日にも近くなった。毎日空はカラリと晴れ、市中はむらむらと蒸し暑い。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「えっ、お米様、じゃ万吉は、あの、無事でおりましたか……」お吉は、観世音かんぜおん霊験れいげんにでも会ったように胸をおどらせて問いつめた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば春琴女の閉じた眼瞼まぶたにもそれが取り分け優しい女人であるせいか古い絵像の観世音かんぜおんを拝んだようなほのかな慈悲を感ずるのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仏、菩薩では、不動明王ふどうみょうおうは煩悩を智の利剣で斬り伏せる折伏門係り、観世音かんぜおんは慈悲で智慧を育て上げる摂受門係りであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大慈大悲だいじだいひ観世音かんぜおん。おなくなりの母ぎみも、あなたにおうとしかろうとは存ぜぬ。が、そのみぎり、何ぞ怪我でもなさったか。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多数の蒙昧もうまいなる愚民ぐみんはただ仏教を信ずるの一念、即ち法王その人はきたる観世音かんぜおん菩薩と信ずるの余りに、法王に対しては決してつるぎを向けることは出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
観音さまはどんな仏か さてまず「観自在菩薩」と申しますのは、観世音かんぜおんすなわち観音さまのことです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
大正十二年の震災にも焼けなかった観世音かんぜおん御堂みどうさえこの度はわけもなく灰になってしまったほどであるから、火勢の猛烈であったことは、三月九日の夜は同じでも
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
堂は六角堂で、本尊は観世音かんぜおん、浅草寺の元地であって、元の観音の本尊が祭られてあった所です。
彼女は、母の慈愛じあいをもって、幼時から信仰を捧げている浅草の観世音かんぜおんの前に、毎朝毎夕ひそかにぬかずき、おのれの寿命を縮めても、愛児の武運を守らせ給えと、念じているのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
子安こやすは近世は主として地蔵じぞう観世音かんぜおん霊験れいげんと結合しているが、そういう中でもなお古い頃の民族信仰の名残が見つけ出されるということは、四十年も前に一度書いてみたことがあり
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小夜の中山に久圓寺といふ寺がてられて、そこに観世音かんぜおんまつつたのは夜啼石よなきいし以前のことで、夜啼石の伝説から子育観音こそだてかんのんの名が流布るふするやうになつたのではあるまいかと思はれる。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ところで、損害の賠償ですが、それには、ぼくはご所蔵の観世音かんぜおん像を要求します。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一体あなたはどこのどなたでいらせられますかと不思議そうに姫が聞く。その答えに、わたしがこの極楽世界の教主、これを織ったのが弟子観世音かんぜおん、お身の心のふびんさに慰めに来ました。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
白磁の観世音かんぜおんのそれのようだった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
秋のに照らし出す仏皆観世音かんぜおん
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
親鳥も頼め子安の観世音かんぜおん
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
誰か助けてやらないか、観世音かんぜおんはアレを救おうとしないのか、あの盲目めしいの小娘を見殺しにするのか。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偶像も同一どういつです。ただ偶像なら何でもない、この御堂のは観世音かんぜおんです、信仰をするんでしょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山路にさしかゝると、頂上には小夜峠さよとうげがあつて、そこには子育観音こそだてかんのんが安置されてゐる。その寺は久圓寺といつて、真言宗しんごんしゅうである。本尊の観世音かんぜおん行基僧正ぎょうきそうじょうの作で、身長みのたけ一尺八寸であるといふ。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
と申したように、観世音かんぜおんにあこがるる心を、古歌になぞらえたものであったかも分りませぬ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浪華なにわでは住吉神社、京では清水寺きよみずでら、男山八幡宮、江戸では浅草の観世音かんぜおん、そのほか旅の先々で受けた所の神々や諸仏天は、今こそ、自分の肌身を固め給うものと信じて、ばばは、鎖帷子くさりかたびらを着たよりも
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしそれとても、大慈大悲だいじだいひ観世音かんぜおんとがたまわぬ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)