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蠶
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かひこ
主人の
細君の
説明によると、
此織屋の
住んでゐる
村は
燒石ばかりで、
米も
粟も
収れないから、
已を
得ず
桑を
植ゑて
蠶を
飼ふんださうであるが、
餘程貧しい
所と
見えて
処が丁度
此玉が七つになつた年の春の事で御座いました、
何処から飛んで来たものか一匹の
蠶の蛾が
這入つて来まして
破ら
家の隅の柱にとまつて卵を沢山に生み付けて
行きました。
彼の
大自然の、
悠然として、
土も
水も
新らしく
清く
目覺るに
對して、
欠伸をし、
鼻を
鳴らし、
髯を
掻き、
涎を
切つて、うよ/\と
棚の
蠶の
蠢き
出づる
有状は、
醜く
見窄らしいものであるが
付け置かるゝとぞ同じ虫でも
蠶の如く人に益し國を
富すあれば
此く樹を枯して損を與たふるものあり
實に世はさま/″\なりと獨り歎じて
前面を見れば徃來は道惡き爲めに避けてか車の行くを
蠶は
皆お玉の母親の心に感じたものか眼も
眩い金銀の糸を吐いて大きな繭を
家中にかけて
居りましたから今まで
真暗なみじめなお玉の
家の中はまるで王様のお
住居の様に光り輝いて
居りました。