蛇籠じゃかご)” の例文
大井川の水れ/\にして蛇籠じゃかごに草離々たる、越すに越されざりし「朝貌あさがお日記」何とかの段は更なり、雲助くもすけとかの肩によって渡る御侍
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は、蛇籠じゃかご崖縁がけぶちから川洲かわすへ飛び降りて、瀬の狭くなる流れ口に足を踏み込み、いきなり、そこへ見えた黒いものをつかみました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村の人が駈けつけて見ると、昨夜来の雨で日高川の水嵩みずかさが急に増した。蛇籠じゃかごにひっかかった一つの体はまだ若い男でありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秋も末に近く、瀬はほとんれてゐた。川上の紅葉が水のまにまに流れて来て、蛇籠じゃかごの籠目や、瀬のふちに厚いあくたとなつて老いさらばつてゐた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ですけれども、真夜中ですもの、川の瀬の音は冥土めいどへも響きそうで、そして蛇籠じゃかごに当って砕ける波は、蓮華れんげを刻むように見えたんですって。
深さ三尺くらいのザラ場から蛇籠じゃかごの沈所へカマエビの餌で流し込み、流れよりおくれた糸ふけに、すかさず合わせると、がっちり合って強い引き。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
黒い石が累々るいるいと重なりつづいて古びた水苔で足がすべる。蛇籠じゃかごを洗う水音が陰々と濡れそぼれた夜の底をながれていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
山口県の北の海岸部には、蛇籠じゃかご祈祷きとうといって、じゃを竹籠のなかに入れて、水の底にしずめるという方法もあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのあとは、みかけは天をす巨木でありながら、まるで綿でもつめた蛇籠じゃかごのように軽く、押せば他愛もなくぐらぐらっと揺れるのである。森が揺れる。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私は静かに坂を下りて、岸に沿うた蛇籠じゃかごの上に腰かけて静かに佳人の運命を想い、水の流れをながめた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
酒匂さかわ河の蛇籠じゃかごに入れる石をひろいに来て居る老人だの小供だのの影が、ポツリポツリと見える。
冬の海 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこは、用水から余った瀬尻せじりが深く水底を穿ってどんよりと蒼蒼しい淵をつくっていた。鮎や石斑魚うぐいなどを釣る人が、そこの蛇籠じゃかごしゃがんで、黙って終日釣り暮すのを見受けることがあった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
波よけの杭にもたせておき、石子詰いしこづめ蛇籠じゃかごに腰をかけてゆっくりと一服やり
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
例の蘆葦茅草ろいぼうそうの合間合間に、水たまりがあり、蛇籠じゃかごがあり、石ころがあって、どうしても進み難いところがある。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さっきは雨脚あめあしが繁くって、まるで、薄墨でいたよう、堤防どてだの、石垣だの、蛇籠じゃかごだの、中洲なかすに草の生えた処だのが、点々ぽっちりぽっちり、あちらこちらに黒ずんでいて、それで湿っぽくって
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本阿弥ほんあみきわめつき、堀川国広ほりかわくにひろ脇差わきざし目貫めぬき白魚しらうお蛇籠じゃかご、うぶご磨上すりあげなし! ……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い堤には人がいなくて、川普請かわぶしん蛇籠じゃかごを作る石だの竹だのが散らばっていた。私は寒いとも思わないのに岸につないであるいかだの傍には焚火たきびけむりを立てていた。すべてのものはいろをしていた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの増水の時によく見るように、上流から流された汚物が一杯蛇籠じゃかごにかかっていた。私はそこで一体の地蔵を見つけた。それは一尺ほどもある、かなり重い石の蒼く水苔の生えた地蔵尊であった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
陽の明るい縁などで、このごろめっきりふえた白髪を抜きながら、忠相がふと、うつらうつらと蛇籠じゃかごを洗う五十鈴いすず川の水音を耳にしたりする時、きまって眼に浮かぶのはあのふくよかなおつるの顔。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中瀬なかせのところは流れが早くてたびたび失敗したが、いくども根気よくやり直してどうにかやりこなし、魚を追い詰められるように、岸のところへ古い蛇籠じゃかごと木の枝を沈めてのようなものをつくった。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
地蔵堂の傍の蛇籠じゃかごへ腰を掛けてしまいました。そうしてぼんやりと夜の河原をながめていました。頭はいろいろのことを考えて、いっぱいになっていました。
やや水嵩みずかさ増して、ささ濁りの流勢は河原の上を八千岐やちまたに分れ下へ落ちて行く、蛇籠じゃかごに阻まれる花あくたの渚の緑の色取りは昔に変りはないけれども、魚は少くなったかして、あさる子供の姿も見えない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
九兵衛も鮎舟の綱を蛇籠じゃかごにからげて、二人の影を追いました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ムクの名を知っている上は、お君に縁ある人に違いない、と思っているうちに、その年増の女は土手を下って、お銀様に近い川の岸の蛇籠じゃかごの傍へやって来ました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その御託宣をかしこまって人夫をかり立てるお取持——えんやえんやで竜吐水りゅうどすいが繰込んで来る、蛇籠じゃかごが持ち出されるという光景を見て、米友がばかばかしさを通り越して
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつしか名取川の沿岸の風物にこうべをめぐらして、眼を放ちながら、幾瀬の板橋を渡りきろうとした時分、ついそこの柳の木の下で、蛇籠じゃかごを編んでいる男があるなという印象が
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「名取川で、蛇籠じゃかごを作っていた怪しい老爺——あれには全く度胆を抜かれましたよ、あなたの御家来に、あんな怪物がいようとは思いも及びませんでした、あれには怖れました」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二本の刀がかんぬきにさされたのが、すっくすっくと川原を歩んで行き、そうして水溜りとか、蛇籠じゃかごとかいうようなもののさわりへ来ると、ちょっと足を踏み止めて思案のていに見えるが、まもなく
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを見ると、右の蛇籠じゃかご作りが、多少そわそわし出して
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)