藪垣やぶがき)” の例文
行宮あんぐうの北の藪垣やぶがきを躍りこえて、まだ暗い海の方へむかって、ひた走りに消え去った人影がある。吉致だったのはいうまでもない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あさくも吹散ふきちりたり。かぜぎぬ。藪垣やぶがきなる藤豆ふぢまめの、さやも、まひるかげむらさきにして、たにめぐながれあり。たで露草つゆくさみだれす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と云いながら出かけて見ると、けましたから人の往来はございません。路を拾い/\参りますと、此方こっち藪垣やぶがきの側に一人人が立って居りまして、新吉がすぎると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じっとりはだに汗をかきながら道を急いで、寂れた街道を通りぬけて、茶圃ちゃばたけの間を横切ったり、藪垣やぶがきわきを通ったりして、遠くから見えていた、山裾の小山の部落まで来て
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
蛙はびっくりして、長く脚を伸ばして二三度飛びはねてゆきましたが、より江がまばたきしているに、どこかへ隠れてしまったのか煙のように藪垣やぶがきの方へ消えて行ってしまいました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
この家は小さい陣屋のような構造かまえで、もんの前には細いながれを引きめぐらし、一けんばかりの細い板橋がわたしてある。家の周囲は竹藪に包まれて、藪垣やぶがきの間から栗の大木が七八本そびえていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たか胸先むなさきくつろげんとする此時このときはやし間一髮かんいつぱつ、まちたまへとばかりうしろ藪垣やぶがきまろびでゝ利腕きゝうでしつかとをとこれぞはなしてなしてと脆弱かよわにも一心いつしん振切ふりきらんとするをいつかなはなさず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その空溝を隔てた、むぐらをそのまま斜違はすかいにおり藪垣やぶがきを、むこう裏からって、茂って、またたとえば、瑪瑙めのうで刻んだ、ささがにのようなスズメの蝋燭が見つかった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)